父の後を継ぎ専業主婦から経営者へ

ビジネスホテルチェーン「東横イン」の2代目社長、黒田麻衣子さんはこう振り返る。

東横イン 社長 黒田麻衣子さん
東横イン 社長 黒田麻衣子さん

「幼い頃、自宅にいても電話口で社員を怒鳴るような父が大嫌いでした。ですから、絶対に父の会社は継ぐまいと心に決めていたんです」

そんな黒田さんを突き動かしたのは強い使命感だった。2008年、グループ会社の廃棄物処理法違反が発覚し、父が責任をとってすべての役職を降りることになったと知るや、「父についてきてくれた人たちのために会社はつぶせない。私がやらねば」と、即座に後を継ぐ決意をしたという。ドイツで専業主婦をしていた暮らしから一転、経営手腕など皆無からの出発だった。しかも、当時はリーマンショックで経済がどん底だった頃。業績悪化に苦しむ中、かつては反感を抱いていた父からのアドバイスで幾度も救われた。

「後を継いで、カリスマ経営者といわれた父の苦労と偉大さを知りました。今は心から尊敬しています」

コスト削減ばかりに気をとられていたとき、現場の声を聴く重要性を説いてくれたのも父だ。ホテルを知り尽くす支配人の意見を取り入れて宿泊料金を値下げするなどした。東日本大震災の復興需要もあり、稼働率は徐々に上昇。日本最大級のホテルチェーンに成長した今も忙しい合間をぬって、300以上あるホテルの支配人との個人面談を年に1度、欠かさず行っている。