対応が早かった韓国、台湾、シンガポール

しかし一方で、非常に対策の早かった国々も存在します。韓国、台湾、シンガポールなどです。これらの国々に共通しているのは「少し前に痛い目に遭っている国」という点で、すべて21世紀の感染症であるSARS(重症急性呼吸器症候群:2002~2003年)・MERS(中東呼吸器症候群:2012年~)・新型インフルエンザ(2009~2010年)のいずれかで、甚大な被害を受けており、どの国も多数の患者と死者を出しています。

韓国は2015年、MERSで感染者186人、死者38人を出しました。中東から帰国した男性が最初の患者でしたが、まず検査が遅れ(発症から10日も経ってようやくMERSと確定)、その間に患者は隔離されず複数の医療機関を転々とし(韓国でよくある「ドクターショッピング」)、隔離入院後も空調設計のまずさから入院していた8階全域に院内感染が広がってしまいました。

しかも当時の朴槿恵政権は、院内感染の広がっている病院名を18日間も公表しなかったため、国民の不安と政権への不満は高まりました。また感染者の意識も低く、隔離中なのに無断外出する人や、症状が出ているのに勤務を続ける医師などもいました。

その教訓から、韓国は今回の新型コロナでは、まだ国内感染者が0人だった1月からすでにPCR診断キットを準備し、やや精度面に難はあるものの、4~6時間で判定できるPCR検査体制を政府・民間の双方で整え、最大で1日1万8000件以上もの「攻撃的検査」を行いました。

さらにスマホの位置情報を利用した感染者の移動経路の追跡を行い、それをネット上で公開しました。人権尊重の観点からすると、ありえないプライバシーの侵害ですが、MERSの経験は、彼らに「命あってこその人権」であることをイヤというほど思い知らせてくれたということでしょう。

シンガポールはSARSで33人の死者を出したことを教訓に、旅行制限措置と公衆衛生のインフラ整備を行いました。しかし2009年の新型インフルエンザでは、あまり役に立たなかったため、今回の新型コロナでは、より厳しい旅行制限(入国制限や入国後の行動制限、帰国者の隔離など)、感染者と接触者の特定&監視、徹底した情報公開と必要情報の提供などを実施しました。

特に「監視」に関しては、クレジットカード支払いや現金の引き出しなど「デジタル署名の痕跡」から、感染者の行動履歴をたどる方法を採用し、こちらもプライバシー侵害が問題視されていますが、これも韓国同様、過去の経験から学んだ「命あってこその人権」という意識なのでしょう。

台湾は、SARSで347人の感染者と73人の死者を出しました。それをきっかけに、防疫用の組織の強化、人材育成、法改正などに、次々と着手。

台湾の防疫政策の根底には、WHOと中国への強い不信感があります。台湾と中国は仲が悪く、WHOは中国寄りとされる組織のため、2003年のSARS流行時、台湾はWHOから情報をもらえず、アメリカの疾病予防管理センター(CDC)経由でもらうしかなかったことから初動が遅れ、多数の犠牲者を出してしまいました。

それを教訓に台湾では、台湾版CDCともいえるNHCC(国家衛生指揮センター)を立ち上げ、独自の警戒態勢をつくりました。ですから今回も、彼らは中国とWHOの発表を信用せず、患者0人の時点から優秀な医療スタッフと隔離室を準備し、マスクの自給体制と国家管理体制を整え、入国管理の徹底と厳しい旅行制限措置をとりました。