マナーは愛であり相手を大切に思う心

マナーは堅苦しいものと考える人も多いようですが、私は新渡戸稲造の著書『武士道』の中の言葉にマナーの原点があると思っています。「体裁を気にして行うのならば、礼儀とはあさましい行為である。真の礼儀とは、相手に対する思いやりが外に現れ出たもの。礼儀の最高の姿は愛と変わりありません」(『武士道』より)

これを読むまで、私は「愛」という言葉は気恥ずかしく、あまり好きではありませんでした。でも、“LOVE”という言葉が日本に入ってきたとき、私たち日本人は「愛」ではなく、「ご大切に」と訳したのです。つまり、「愛」とは自分を大切にするように、家族や職場の仲間、お客さまを大切にする思いやりの心。私は『武士道』を読んで、マナーは愛であり、思いやりの心をもって、“I am OK, You are OK.”と言える世界をつくっていくことだと解釈しました。現代人は忙しく、文字どおり心をなくしがち。気持ちにゆとりをもち、思いやりの心を忘れず、日々過ごしたいものです。

お礼やお詫びの際にも、意思を伝達するだけでなく、相手の気持ちを思いやる「愛語」を使うことが大切です。愛語は助詞が変わるだけで、相手を思いやるどころか、不快にさせる言葉に変わります。特にメールは無機質になりがちなので、書いた後に必ず読み返し、愛語を使っているか、そして受け取った人はどう思うかを考えましょう。お礼もお詫びも、思いやりと誠意のある言葉が相手の心に響くのです。

また、日本で生まれた「大和言葉」はやさしい印象を与えるもの。さまざまな表現があるので、お礼やお詫びに取り入れるといいでしょう。

そして最近は、「ありがとう」や「ごめんなさい」でなく、あらゆる場面で「すみません」と言う人が増えています。ビジネスの世界では、その場にふさわしい言葉を選ぶことが重要です。そのためにも、多くの言葉を知って、お金持ちならぬ“言葉持ち”をめざしてください。

話し方や表情が印象を左右する

お礼もお詫びも気持ちを伝達するものですが、アルバート・メラビアンという米国の心理学者は、人間の伝達効果は「言葉が7%、話し方が38%、表情が55%」と唱えています。

例えば、目を閉じた状態で「申し訳ありません」という言葉を聞いても、まったく申し訳なさそうに聞こえません。一方、目を開けて、相手の表情や動作を見ながら、お詫びの言葉を聞くことで、「申し訳ない」という気持ちが伝わるのです。特に、電話は相手の表情が見えないので、声に表情をつけることを意識してください。