自信のある女性は魅力的な同性を低く評価しない。自尊心の低い女性は…

より興味深いのは3つめの実験で、被験者は第一の実験と同じ条件で、広告会社のクリエイティブ・ディレクターの仕事への適性を評価した。それに加えて今回は、被験者の自尊心(自己評価)の影響を調べた。

橘玲『女と男 なぜわかりあえないのか』(文春新書)
橘玲『女と男 なぜわかりあえないのか』(文春新書)

それによると、自分への肯定感が高い女性の被験者は、魅力的な女性の応募者を低く評価することはなかった。それとは逆に、自尊心の低い被験者は、魅力的な女性の応募者をきわめて低く評価したのだ。

自尊心は外見に強く影響されることがわかっている。研究者はこの結果を、容姿に自信のない女性が、魅力的な女性を排除したのではないかと説明している。魅力的なライバルは、魅力のない人間にとって「性愛競争」の深刻な脅威なのだ。

この実験は、女のいじわるさを示しているのだろうか。答えはイエスでもあり、ノーでもある。

じつは研究者は、男女を反転させた同じ設定で男の被験者の評価も調べている。その結果は女の被験者の評価とまったく同じで、性差はなかったのだ。

男もまた、「間接的攻撃」によって魅力的な男のライバルを排除しようとした。女がいじわるなら、男も同じくらいいじわるなのだ。

外見の心理的影響はきわめて強力で、面接官は魅力的な同性の応募者を落とし、魅力的な異性の応募者を優先的に採用する。それに対して魅力のない応募者は、同性の魅力のない面接官からは高く評価される。

「新卒女性の採用を顔で決めている」と揶揄される会社があるが、面接官が男ばかりだと当然こうなる。こうしたバイアス(偏見)をなくすためには、履歴書に写真を貼ることを禁じたり(アメリカでは徹底されている)、面接官を男女同数にする必要があるだろう。

外見のバイアスは昇進や昇給などでも顕著で、人生に大きな影響を及ぼす可能性がある。あなたが自分のことを魅力的だと思っているのなら、魅力のない同性の上司や同僚には気をつけた方がいいだろう。

34 Maria Agthe, Matthias Spörrle and Jon K. Maner(2011)Does Being Attractive Always Help? Positive and Negative Effects of Attractiveness on Social Decision Making, Personality and Social Psychology Bulletin

写真=iStock.com

橘 玲(たちばな・あきら)
作家

2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎文庫)、『言ってはいけない』(新潮新書)、『バカと無知』(新潮新書)、『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)など著書多数。