多くの女性が姓の変更で不便さを実感

私には、選択的夫婦別姓の導入にデメリットがあるとは思えません。反対意見にはどれも説得力が感じられず、なぜそんなに嫌なのか、いまだに理解しきれない部分もあります。でも彼らは、日本社会の存続は「一体感のある家族」あってこそと本気で思っています。

そうした考えの人は夫婦同姓を選べばいいわけで、私はそれを否定するつもりも、別姓を押しつけるつもりもありません。繰り返しになりますが、夫婦別姓は「選択的」です。この制度では、同姓がいい人は同姓を、別姓がいい人は別姓を選ぶことができます。どちらか一方の考えを押しつけることなく、各自が好きな生き方を選べる──これがベストな方法ではないでしょうか。

選択的夫婦別姓についての議論はもう熟しています。専門家の意見も出尽くしていて、これ以上、導入を前進させる新たな視点は出てこないように思います。後は、世論が「選択的夫婦別姓賛成」に大きく傾くのを待つしかなさそうです。

「家族の一体感守るため多少の不便は甘受せよ」という考え

日本では今も、結婚すると女性が男性の姓に変えることがほとんどです。各機関に名義変更の届出をするのはかなり手間がかかりますから、面倒な思いをした女性も多いのではないでしょうか。「姓が変わると取引先の混乱を招くかもしれない」と考えて、職場では通称(旧姓)を使う人も少なくないようです。

夫婦別姓が認められない限り、今後も通称使用は拡大していきそうですが、これはこれで社内でのルール整備など面倒を伴うもの。それならいっそ別姓を選べるようにしてしまえばいいのにと私は思います。

別姓を選べないことに伴う不便は他にもたくさんあるはずです。しかし、保守派である現政権の考え方は「家族を守るため多少の不便は甘受せよ」です。これを変えるには有権者の判断に頼るしかありません。

今、日本の家族のあり方は大きく変化しつつあります。時代に合わない古い制度は、積極的に変えていく必要があります。近い将来、選択的夫婦別姓制度が導入されて、誰もが自分らしい道を選べる社会になるよう願っています。

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筒井 淳也(つつい・じゅんや)
立命館大学教授

1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。