夫婦同姓の始まりは差別的なイエ制度
では、選択的夫婦別姓への反対意見にはどんなものがあるのでしょうか。よく見かけるのが「夫婦同姓は日本の伝統だから守るべき」という意見です。しかし、日本に夫婦同姓が導入されたのは1898年、明治時代の民法改正によってです。約120年前なので、伝統というには少し新しすぎるように思います。
それ以前の日本は夫婦別姓でした。もともと庶民には姓のない人も多かったのですが、1875年に姓を名乗ることが義務化されてからは夫婦別姓に。その状態が20年ほど続いたのち、1898年の改正で夫婦同姓が義務化されたのです。
この時は、結婚したら女性が男性の家の一員になると明確化したかったのか、女性は男性の姓を名乗ることと決められていました(婿養子の場合は、男性が女性の姓を名乗る)。これが日本の「イエ(家)制度」の始まりです。
「イエ制度」はいろいろ男性優位のものでした。たとえば夫が家庭の外でつくった子ども(婚外子)を、妻の同意を得ずに世帯の一員にすることさえできました。なんて差別的な制度だと思った方もいるのではないでしょうか。
まさにその通りで、この制度は差別的だという理由で1947年に廃止。夫婦は、同姓ならどちらの姓を名乗ってもいいことになりました。つまり、今と同じ夫婦同姓のあり方は、始まってからまだ70年ちょっとしか経っていないのです。
「別姓だと家族の一体感が薄まる」は本当か
次に聞かれるのが「夫婦別姓だと家族が一体的でなくなる」という意見です。私には、それは姓ではなく相性や性格の問題だとしか思えません。離婚が増えるという声もありますが、姓の不一致が原因で離婚するような夫婦なら、さっさと離婚したほうが幸せだと思います。保守派の意見はこの点で矛盾していて、緊密な家族関係の重要さを説きながら、そのような関係が姓くらいで失われるものだと考えているのです。
「夫婦が別姓だと子どもが困る」という意見もあります。しかし、家族社会学の研究者として言えば、そうしたエビデンスはありません。海外には家族の姓がバラバラな国も多いですし、姓を気にせず名前だけで呼び合う国もたくさんあります。
日本はまだ姓で呼んだり呼ばれたりする機会が多く、姓がアイデンティティのひとつにもなっています。その点で改姓する側にやりにくさが出てくるかもしれませんが、夫婦別姓が選べるようになれば、良い意味で“姓を大事にしすぎる文化”は薄まっていくでしょう。そして、薄まっても別に困らないと思います。