選択的夫婦別姓が議論され始めてからずいぶん経つのに、いまだに実現しないのはなぜなのか。そして導入を阻んでいる政治家たちの思惑とは──。家族のあり方を研究する筒井淳也先生が解説します。
チャペルで結婚式を挙げるアジア人カップル
※写真はイメージです(写真=iStock.com/kyonntra)

保守派にとって「家族」は聖域

近年、選択的夫婦別姓制度が関心を集めています。これは、結婚した2人が自分の姓をどうするか選べるようにする制度で、実現すれば、現在の「2人とも夫の姓を名乗る」「2人とも妻の姓を名乗る」に加えて、「2人とも結婚前の姓を名乗り続ける」という第三の選択肢が生まれます。

つまり、苗字を統一してもいいし別々のままでもいいよという制度なのですが、反対派の中にはこれを誤解している人も少なくありません。ニュースなどではしばしば「夫婦別姓」と縮めて報じられるため、導入されたら苗字を別々にしなければならないと思い込んでいる場合があるのです。

こうした誤解からくる反対も、選択的夫婦別姓がなかなか実現しない理由のひとつです。しかし、最大の理由はやはり「政治」でしょう。家族のあり方に関する制度の可否は、その時々の政権の価値観に左右されがちです。そして政権が保守派の場合、最も守りたい“譲れない聖域”が家族そのものなのです。

現在の安倍政権は、家族については従来の制度を守り抜きたいはずです。そこを譲ってしまうと、保守派の有権者から成る支持母体をごっそり失いかねません。たとえ政治家の一人ひとりは選択的夫婦別姓に賛成でも、うかつにそうとは言えない事情があるのです。