虚偽ニュースを伝えるのは非インフルエンサー&高齢者

インフルエンサーという言葉が広まり、インフルエンサーマーケティングというものまで存在しています。虚偽ニュースもこのような人たちによるものがあるのでしょうか? 研究によると、答えは違います。むしろ逆であり、虚偽ニュースを伝える人の特徴は以下のような驚くべきものなのです。

1.フォロワー数が少ない
2.フォロー数が少ない
3.ツイートの頻度が低い
4.認証ユーザーの割合は少ない
5.アカウントの保有期間が短い
6.高齢者

ここで高齢者がでてくるのが一つ特徴的かもしれません。研究によれば、65歳以上の高齢者層は、18歳から29歳の人よりも嘘の情報を7倍多くシェアしており、45歳から65歳の2倍以上、30歳から44歳の3倍以上のフェイクニュースをシェアしていたということも明らかになっています。

高齢者と若者のSNS等に対するリテラリシーの程度が異なることに加え、高齢になるほど自身の考えの柔軟性が減る分、思い込んだことを変更しづらいという特性があるのかもしれません。また、高齢者にかかわらず、知り合いや話し相手が少ないといった孤独感の強さが、インターネットへのアクセスを増やし、いいね、等を通じて拡散をする原因になっていることも考えられます。

脳は「目新しさ:novelty」に反応する

脳は、コンスタントにさらされている情報に対しては、反応が徐々に減っていきます。ところが、予期していなかった「新規性」を持つ情報には、大きく反応します。実際、新しい情報に対しては、その情報自体が報酬として作用することがあり、ドーパミンが増加することや、一人ひとりの性格特性としての「新規性探求度合」と前頭前野や大脳基底核などのドーパミン作動性経路上にある脳領域が関連していることが明らかになっています。また、新規性が高くネガティブな情報等、人の感情に強く訴えかけてくる刺激的な情報は長期記憶として脳に刻まれやすいとことも明らかになっています。

新しい現象に対する恐怖心が、人の脳や心に強く影響し、虚偽の情報が広まります。そこから生まれる恐怖感に対して、一時的な安心感という報酬を得るための購買行動は、結局なにも解決せず、社会全体を見渡した時に、状況を悪化させるだけなのでしょう。「ネガティブな新規性の高い情報」に弱い心と脳をうまくコントロールすることで虚偽情報に振り回されないことが、今個々人にもとめられている重要なことの一つといえそうです。

<参考文献>

・Andrew Guess, Jonathan Nagler and Joshua Tucke, Less than you think: Prevalence and predictors of fake news dissemination on Facebook,Science Advances  09 Jan 2019

・Vosoughi, S., Roy, D. & Aral, S.The spread of true and false news online. Science 359, 1146–1151(2018).
・Martin, T., Hofman, T., Sharma, J. M., Anderson, A. & Watts, D. J. Proc. 25th Int. Conf. on World Wide Web, 683–694(International World Wide Web Conference Committee, 2016).
・Adina M.Mincic,Neuroanatomical correlates of negative emotionality-related traits: A systematic review and meta-analysis, Neuropsychologia(2015)
・Anh Hai Tran, Teruko Uwano, Tatsuo Kimura, Etsuro Hori, Motoya Katsuki, Hisao Nishijo and Taketoshi Ono, Dopamine D1 Receptor Modulates Hippocampal Representation Plasticity to Spatial Novelty, The Journal of Neuroscience(2008)
・William J. Brady, Julian A. Wills, John T. Jost, Joshua A. Tucker, and Jay J. Van Bavel, Emotion shapes the diffusion of moralized content in social networks, PNAS(2017)

写真=iStock.com

細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
東北大学大学院情報科学研究科 加齢医学研究所認知行動脳科学研究分野准教授

内閣府Moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業T創発的研究支援)研究代表者。脳情報を利用した、子どもの非認知能力の育成法や親子のwell-being、大人の個別最適な学習法や行動変容法などについて研究を実施。