楽観的対応から一変
それが一気に変わったのが、感染者が急増し続けていたNY州の知事が「非常事態宣言」を発令した7日土曜日だった。世の中が動き始めた週明けから、NY、NJ両州とも感染者がさらに拡大し、NJ州知事も9日に非常事態を宣言。その後、大規模イベントの中止を求められたNY市では、ブロードウェーのミュージカル劇場の全館閉鎖、メトロポリタン美術館の閉館などが次々と打ち出され、コロンビア大などの大学は軒並み、オンライン授業に切り替えた。
筆者が所用でNY・マンハッタンを訪れた10日。ドラックストア数店舗を回ってみたが、マスクもサニタイザーも売り切れで、店員は入荷時期を問いただす客への対応で追われていた。米国では、マスクを着用することが予防の観点ではなく、完全に病人扱いされるため、医療従事者を除けば、それほど取り扱われていない。マスク姿のアジア住民がマンハッタンで突然殴打される動画が拡散したこともあり、ほとんどの在住日本人はマスク着用を控える傾向にある。
NYに拠点を置くニューヨークタイムズなど米国メディアが2月まで取り上げていたウィルス禍関連のニュースは、アジア発のものが大半で、横浜港に留め置かれ続けた「ダイヤモンド・プリンセス」をめぐる検疫体制の不備など日本政府を批判する報道などが目立っていた。米国でも死者が出始めた3月に入って、自国に深刻な影響を及ぼしかねないと捉えてからは、報道番組は朝から夜までコロナ一色に染まっている。空気が様変わりした要因は、報道にもある。
トランプ大統領は当初「米国民のリスクは低い」「この騒動は民主党の仕業だ」などと極めて事態を楽観視し、一部報道をフェイクニュースとも断罪していた。それが11日の記者会見で「欧州からの渡航30日間の禁止」を突如表明。13日には「国家非常事態宣言」を出した。
飲食店から悲痛のメール
さらに、外食や10人以上の集会、旅行の自粛を呼びかけた16日の会見が決定打となり、NY、NJなどの3州ではレストランや映画館、スポーツジムなどが無期限で閉鎖されることになった。飲食店は当面、宅配か持ち帰りのみの営業を余儀なくされている。
NJ州では、16日から午後8時から朝5時までの夜間外出禁止となった後、NYなどと足並みを揃え、不要不急の外出は一切禁じられた。筆者の元には、飲食店から来店を促す携帯電話のテキストメッセージやメールが寄せられる。店の存続、店員の給与に直接響くため、中には悲痛な文面も見受けられる。
大量の荷物を扱う郵便配達員、宅配便の配達員に加え、飲食店やスーパーなどの店員も手袋を着け始めた。買い物客も手袋を着ける人が目立ち、米国人も含めてマスク姿の人はまったく珍しくなくなった。物資が買いだめされたスーパーや量販店の棚が「すっからかん」の光景もすっかり見慣れたものになっている。