変化の圧力になるべき、女性の力が弱い

女性議員の比率が10%という、政治に女性の声が届きにくい状況をそのままにしてきてしまったのは、私たちの責任でもあります。法律や予算に、さまざまな意見が反映されるようにしないと、これまでも、これからも、偏ったニーズしか反映されないままになります。その意味を理解しなくてはなりません。それは、私たちだけでなく次世代に対する責任でもあります。

政治の男女格差で難しいのは、女性自身に、「自分たちが当事者なのだ」という意識が少ないところにもあるように思います。一番大きな変化の圧力になるべき当事者の力が弱いのです。通常、当事者団体が国内で活動して、どうしても変化が起きない場合には、国連などに働きかけて「外圧」を促すような形も取れますが、そもそもの女性の当事者団体の活動が育っていないのでそれもできません。

安倍首相は国内外でしょっちゅう女性活躍についてスピーチをしていますが、政治よりも、経済で活躍してもらうことしか考えていないように見えます。しかし、女性が経済で活躍するためにも、政策決定のプロセスにもっと女性が関わる必要があります。

政治を変えなければ、私たちの生きづらさは解消しない

政治は、社会そのものを作る領域です。医療や教育、働き方など、すべてに予算と法律が関わります。政治が日常を決めると言ってもいい。ここが変わらないと、今私たちが抱えている生きづらさは解消されません。

私はお茶の水女子大学で「政治政策とジェンダー」の授業を教えていますが、最初の授業で「将来、政治に関わりたいと思う人?」と聞くと、教室にいる30~40人のうち誰も手を挙げる人がいません。でも、学期末に同じ質問をすると、必ず何人かは手が挙がるようになります。

関心を持ち、わかれば道が見えてくるのです。

構成=大井明子 写真=iStock.com

申 琪榮(しん・きよん)
お茶の水女子大学 ジェンダー研究所 教授

米国ワシントン大学政治学科で博士号を取得し、ジェンダーと政治、女性運動、ジェンダー政策などを研究。学術誌『ジェンダー研究』編集長。共著『ジェンダー・クオータ:世界の女性議員はなぜ増えたのか』(明石書店)など。女性議員を養成する「パリテ・アカデミー」共同代表。