女性候補の数値目標を持たないのは自民党だけ

2018年に、候補者の男女比率をできるだけ同じにするよう政党に求める「政治分野における男女共同参画推進法」(候補者男女均等法)が施行されました。共産党は既に半分が女性ですし、公明党は、国会には女性が少ないですが地方では多い。ほかの野党も、守れているかどうかは別として、女性の登用について何らかの方針を持っています。女性候補の割合の数値目標を持っていないのは、自民党だけです。

野党議員に女性が多いのは、自民党に比べて現職が少ないことが理由の一つです。「現職の男性に立候補を辞退してもらって、女性候補を立てる」という必要が少ないのです。また、自民党の現職男性に対抗して違いを打ち出すうえで、女性の方が新鮮さを感じてもらえるということもあります。

もし、もっと野党が選挙で強くなれば、競争が起き、差別化を図ろうとして女性の擁立も増えるでしょう。実際海外で女性議員が増えた例を見ると、こうした政党間競争が一因となっていることが多いのです。

候補者男女均等法の施行後初めての大型国政選挙となった2019年の参院選では、女性立候補者の割合は過去最高の28.1%となり、当選者数も前回の2016年の参院選と同じ28人になりました。特に、野党が女性の統一候補をたくさん立てました。こうした動きが突破口となって、少しでも変化が起きればいいと思っています。

女性議員が女性政策に目を向け始めた

最近では、少し希望の持てる動きが出てきました。

これまでは、女性議員が女性政策を大々的に打ち出すことは、政治家としてほとんどプラスになりませんでした。しかしアメリカでは、#MeToo運動のあとの選挙で女性候補者が増え、そのほとんどが女性政策を掲げました。女性が声を上げることが、政治的に意味があるという認識が生まれてきたのです。有権者の方も、以前は女性候補が女性政策を掲げると「偏っている」「政策の幅が狭い。もっと国全体に向けた政策を」と批判してきましたが、それも変わってきました。

先日、自民党の稲田朋美幹事長代行が、女性議員を増やすために憲法を改正してはどうかというアイデアを出して話題になりました。保守派で、もともとは女性政策をほとんど打ち出してこなかった政治家ですが、最近になって、かつて反対の姿勢を表明していた選択的夫婦別姓に賛同の意を表明したり、未婚のひとり親支援を強化すべきという発言をするなど、女性政策に言及することが増えてきました。

これは、自民党の女性議員も、女性政策が政治的に価値あるものだと認識し始めたことを示しています。政治家として、自分自身を「古い自民党政治家とは違う」と差別化する要因になると判断しているのではないでしょうか。これは注目すべき傾向だと思います。

あとは、「女性票を獲得するだけ獲得して、当選したら女性政策をおろそかにして知らんぷり……」ということが起きなければいいですね。

※編集部注:初出時、公明党の女性国会議員数について誤った表記があました。お詫びして訂正いたします(3月16日9時50分追記)

構成=大井明子 写真=iStock.com

申 琪榮(しん・きよん)
お茶の水女子大学 ジェンダー研究所 教授

米国ワシントン大学政治学科で博士号を取得し、ジェンダーと政治、女性運動、ジェンダー政策などを研究。学術誌『ジェンダー研究』編集長。共著『ジェンダー・クオータ:世界の女性議員はなぜ増えたのか』(明石書店)など。女性議員を養成する「パリテ・アカデミー」共同代表。