昨年2019年12月に発表された「ジェンダーギャップ指数」は、日本政治における男女格差が、グローバルで見ても最低レベルであることを示した。政治とジェンダーに詳しい、お茶の水女子大学准教授の申琪榮さんは、その背景には政治に対するあきらめや無力感があると指摘する。政治へのあきらめが、なぜ男性優位の政治を維持する方向に働くのだろうか。
投票ボックスで選挙投票の概念のための投票用紙を保持するクローズアップハンド
※写真はイメージです(写真=iStock.com/mansuang suttakarn)

女性は、政党にとって「便利な存在」なのか

今のところ、日本の女性の声は、政党が耳を傾けざるを得なくなるほど大きくなってはいません。

お茶の水女子大学 准教授 申琪榮さん
お茶の水女子大学 准教授 申琪榮さん

声を上げない女性というのは、政党からすると便利な存在です。声を聞いて意見を政策に反映すべき対象である「1人の有権者」ではなく、動員すれば票を投じてくれる「1票」という頭数でしかないんです。

しかし、投票しても自分の声が届かないという状態で本当に良いのでしょうか。ジェンダーギャップの総合で121位、政治分野で144位である本当の意味は、そこにあるのではないかと思います。

今の政治に対してあきらめを感じている人はとても多く、それが投票率の低さに表れています。2017年の衆議院議員選挙では53.68%、2019年の参議院議員選挙では48.80%でした。投票率は、ずっと低かったわけではなく、1980年代ごろまでは、特に衆議院の総選挙ではだいたい70%台で推移していました。それが、だんだん「政治に関心を持っても仕方がない」という無力感が広がり投票に行く人が減りました。特に、第2次安倍内閣になった2012年からは急激に下がっています。

投票率の低さは与党にとって好都合

投票率が下がるということは、政党を支持している人たち、政党に動員されている人たちばかりが投票することになります。投票全体に占める組織票の割合が上がるので、政治に届く声がさらに偏ってしまう。

しかしそれは、与党にとっては都合がいいことです。下手に投票率が上がって、組織票以外の票が増えると困ります。見慣れた年配の男性ではなく、女性や若手など、新鮮な顔ぶれが立候補すると、選挙が盛り上がって投票率は上がると思いますが、そうして選挙への関心が上がると、組織票ではない「読めない票」が増える。それは与党には大きな脅威です。ですから、選挙になると一応「選挙に行こう」とは言うものの、テレビで討論があるわけでもないですし、選挙そのものに関心を持たせるようなことはほとんど行われません。

こうした投票率の低さは、「有権者が政治に関心を持たないからだ」と、有権者を責める声もありますが、私はそうではないと思います。政治がダメになったから有権者が政治に関心を持たなくなってしまった。「関心を持っても仕方がない」と思わせるような、政治の側の問題です。ある意味、私たちは、「あきらめさせられている」と言えるわけです。そしてその状態は、与党にとって都合が良いのです。

自民党には、女性を増やすモチベーションがない

与党・自民党の、男性多数の顔ぶれはなかなか変わりません。自民党には「現職優先主義」という方針があるので、変えようというモチベーションが生まれないのです。現職ということは、選挙で勝った人たちなので、別の人を立候補させようということにはなりません。そして現職はほとんど男性ですから、女性が増えにくいというわけです。

もし、投票率が上がって「読めない票」が増え、競争が激しくなり「現職だったけれど選挙で落選した」ということが頻繁に起きるのであれば、立候補者の顔ぶれは変わるでしょう。しかし、現状ではまったく逆のことが続いています。

本当であれば、「当選回数の上限を決める」「政界を引退する人がいたら、新しく立てる候補者は女性にする」といった方針を政党で掲げればいいだけの話です。しかし、自民党は地方の力が強く、地方は特に高齢の男性が多いので反発が大きく難しい。

女性候補の数値目標を持たないのは自民党だけ

2018年に、候補者の男女比率をできるだけ同じにするよう政党に求める「政治分野における男女共同参画推進法」(候補者男女均等法)が施行されました。共産党は既に半分が女性ですし、公明党は、国会には女性が少ないですが地方では多い。ほかの野党も、守れているかどうかは別として、女性の登用について何らかの方針を持っています。女性候補の割合の数値目標を持っていないのは、自民党だけです。

野党議員に女性が多いのは、自民党に比べて現職が少ないことが理由の一つです。「現職の男性に立候補を辞退してもらって、女性候補を立てる」という必要が少ないのです。また、自民党の現職男性に対抗して違いを打ち出すうえで、女性の方が新鮮さを感じてもらえるということもあります。

もし、もっと野党が選挙で強くなれば、競争が起き、差別化を図ろうとして女性の擁立も増えるでしょう。実際海外で女性議員が増えた例を見ると、こうした政党間競争が一因となっていることが多いのです。

候補者男女均等法の施行後初めての大型国政選挙となった2019年の参院選では、女性立候補者の割合は過去最高の28.1%となり、当選者数も前回の2016年の参院選と同じ28人になりました。特に、野党が女性の統一候補をたくさん立てました。こうした動きが突破口となって、少しでも変化が起きればいいと思っています。

女性議員が女性政策に目を向け始めた

最近では、少し希望の持てる動きが出てきました。

これまでは、女性議員が女性政策を大々的に打ち出すことは、政治家としてほとんどプラスになりませんでした。しかしアメリカでは、#MeToo運動のあとの選挙で女性候補者が増え、そのほとんどが女性政策を掲げました。女性が声を上げることが、政治的に意味があるという認識が生まれてきたのです。有権者の方も、以前は女性候補が女性政策を掲げると「偏っている」「政策の幅が狭い。もっと国全体に向けた政策を」と批判してきましたが、それも変わってきました。

先日、自民党の稲田朋美幹事長代行が、女性議員を増やすために憲法を改正してはどうかというアイデアを出して話題になりました。保守派で、もともとは女性政策をほとんど打ち出してこなかった政治家ですが、最近になって、かつて反対の姿勢を表明していた選択的夫婦別姓に賛同の意を表明したり、未婚のひとり親支援を強化すべきという発言をするなど、女性政策に言及することが増えてきました。

これは、自民党の女性議員も、女性政策が政治的に価値あるものだと認識し始めたことを示しています。政治家として、自分自身を「古い自民党政治家とは違う」と差別化する要因になると判断しているのではないでしょうか。これは注目すべき傾向だと思います。

あとは、「女性票を獲得するだけ獲得して、当選したら女性政策をおろそかにして知らんぷり……」ということが起きなければいいですね。

※編集部注:初出時、公明党の女性国会議員数について誤った表記があました。お詫びして訂正いたします(3月16日9時50分追記)