結婚したあと、死ぬまで何もしないの?

——当時としては、かなり革新的な小説だったのですね。

【谷口】「結婚できなければ娘の人生は終わり」だと多くの母親が思っていた時代です。『若草物語』の四姉妹の母親も、娘たちが幸せな結婚をすればいいと思っている。だけど、「意にそわない結婚をするくらいなら、独身でもいい」とはっきり娘に言うんですよ。19世紀の女性としては、とても新しい考えです。

話は少し飛びますが、「大草原の小さな家」シリーズで有名なローラ・インガルス・ワイルダーは19世紀後半に生まれた作家で、ルイザの少し後の人なので『若草物語』を読んでいました。ローラもエッセイの中で、「王子様と幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし」で終わるシンデレラは、20代で結婚したあと、死ぬまで何もしないの? と書いている。ローラの娘も『若草物語』が大好きですし、ルイザはそういう風に、女流作家たちの前に道筋をつけていった人でもあるのですね。

父親から大きい影響を受ける

——ルイザも『若草物語』と同じ四人姉妹で、自身の家族が小説のモデルになっています。中でも、作家志望の次女ジョーはルイザの分身のような存在。ジョー、すなわちルイザの考え方は父親から大きな影響を受けているそうですね。

【谷口】若草物語』の原題は「Little Women」ですが、ルイザの父ブロンソン・オルコットは姉妹4人をそれぞれ「ウーマン」として尊重していました。かわいい「ガールズ」ではないのよね。あの時代の父親で、娘のことを自分の意思と個性をしっかり持った人間だと言った人はそうそういません。ブロンソンは教育者でしたが、小説では父親の設定を牧師に変えています。

——それはなぜなのでしょうか? 教育者であり、超絶主義者、徹底的な菜食主義者としても有名な方ですよね?

【谷口】かなり急進的な考えの人だったので、物語には書けなかったんですよ。理想が高く、良いことを言っているのですが、霞を食って生きているような人だったので、みんなついていけない。だから『若草物語』では牧師という職業にして南北戦争に行ってもらい、ほとんど登場しない(笑)。だけど、よくお手紙を書いてくるなど、一家の精神的な支えとして描かれています。

ルイザは幼い頃から、そんな父親に「自分のことは自分で決めて、個性を生かせる女性になりなさい」と言われて育ったので、そうあることが当たり前だと思っていたのね。それがジョーの考え方にも反映されていて、「決められた女の生き方」に反発していくのです。