経営層、管理職は自らの時代感覚を捨てるべき

すでにいまから25年前の1995年には、非農林業世帯(いわゆる普通のサラリーマン世帯のイメージ)において専業主婦世帯と共働き世帯が半々になっていました。その後も共働き世帯が着実に割合を伸ばし、2018年には専業主婦世帯33%、共働き世帯67%となっています。

しかし、40年前の1980年でみると、いまとは全く逆の世帯構造だったことがわかります。そのために80年から90年ごろに結婚した夫婦(子どもが30歳から40歳程度の50代半ばから70代の夫婦)は当時の時代感から子どもを持つには「専業主婦の家庭が当たり前」という感覚がぬぐい切れないのかもしれません。

日本の現状を考えるならば、自らの時代感覚は捨て去り、「夫婦そろって働きつつ子どもを持つ家庭が統計的には当たり前の社会となった」ということを、まずは企業の経営者、管理職層は、出生数減少を食い止めたいのであれば、経営課題の柱として理解しなければならないといえます。

“少子化促進企業”を可能な限り減らす

今回ご紹介したデータからは、企業における女性活躍や子育て支援という言葉さえももはや古臭い、ともに育てながら働き続けるという当たり前のことを前提に企業経営を行うだけの時代になっていることがわかると思います。

専業主婦世帯が主流だったころこそ、女性が社会で働くことや共働き家庭があることへの配慮は

「社会に出る女性も応援してあげなくては」
「専業主婦世帯はいいけれど、奥さんが働いているところは奥さんを楽にしてあげなければ」

という感覚で、マイノリティへの思いやりであるかのようにとらえられていたかもしれません。しかし、今や「統計的には当たり前のことをしないなら、子どもは増えない、それだけだ」ということがわかります。

今回ご紹介したデータをエビデンスとして「これをやらなければ出生数はあがらない策」を導くとするならば、まずは「専業主婦に男性社員の家族形成を頼らねば存続ままならない」、そんな男性の働かせ方が残っている企業は“少子化促進企業”であるため、可能な限り減らさなければならない、ということになります。たとえば前述したような未だに専業主婦世帯が多数派という伝統的な労働体制の企業がこれにあたります。長時間労働や全国転勤制度が当たり前になっていることを見直し、専業主婦による社員の家族形成支援に依存しない経営への転換が必要でしょう。

少子化は働く女性の問題でもなく、女性の高学歴化の問題でもない。「少子化促進企業」を減らすこと、つまり男性のライフデザイン改革こそ、日本が今すぐに手をつけるべき課題なのです。

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天野 馨南子(あまの・かなこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 人口動態シニアリサーチャー

東京大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。1995年日本生命保険相互会社入社、1999年から同社シンクタンクに出向。1児の母。専門分野は人口動態に関する諸問題(特に少子化対策・少子化に関する社会の諸問題)。内閣府少子化関連有識者委員、地方自治体・法人会等の人口関連施策アドバイザーを務める。エビデンスに基づく人口問題(少子化対策・人口動態・女性活躍・ライフデザイン)講演実績多数。著書に『データで読み解く「生涯独身」社会』(宝島社新書)等。