ミスや失敗を否定するのではなく、蓄積するという姿勢

失敗学においては、仕事を進めるうえで起こった重大なマイナスの事象については、その問題の本質は起こした担当者ではなく、業務手順にあるととらえます。

「実際にミスをしたのに、そんな発想は責任逃れだ」と思われるかもしれませんが、実はこの発想こそが、同様のミスや失敗を二度と組織が繰り返さないために、もっとも重要なポイントです。

そして実際、このような発想で業界そのものを変革した結果、ミスが極端に減った事例があります。それは、航空業界です。

私たちが乗る飛行機には、「ブラックボックス」が搭載されており、フライトデータとコクピット内のボイスレコーダーのデータが記録されています。航空業界で重大事故が起こった場合、乗員・乗客が全員死亡することも少なくないということを踏まえると、ここには航空業界のミスや失敗への姿勢がよくあらわれているといえます。

「どんな事故でも、原因を隠さず究明しよう」という発想、「ミスや失敗をきちんと蓄積して次に生かそう」という意識が他の業界よりも強いのです。

このようにミスや失敗の扱い方を変えたことによって、

・どこかでミスや失敗が1つ起こるたびに、同じミスや失敗が起こる可能性を下げられる
・ミスや失敗によって、かえって安全性がもたらされる
・ミスが起こる前より後のほうが、確実にシステムが向上している

というわけです。

ミス・失敗する→叱られる→謝罪・対応する→反省する→ミスや失敗を分析し、繰り返さない仕組みをつくる→仕組みに不備があり、またミスや失敗が起こる→叱られる→謝罪・対応する→反省する→再び分析し、仕組みをつくり直す→……

残念ながら、大きな挑戦であればあるほど、最初の挑戦で失敗やミスをして、備える仕組みをつくったとしても、次にすぐうまくいく、ということではありません。多くの場合、また失敗やミスが起こります。挑戦する組織は、「試行」「ミス」「分析」のループを何度も繰り返しながら、成功をする方策を探し続けているのです。この上向きのらせんこそが、組織や企業にとっての成長・レベルアップにほかなりません。

同様に個人においても、「こうすればうまくいかない」を蓄積できる人が、仕事を通して成長していける人であり、失敗やミスをするごとにその精度を高め、信頼を勝ち取っていける人といえます。さらにいえば、「こうすればうまくいかない」を適切に蓄積していく仕組みをつくることが、ミスや失敗を単なるマイナスにしないための方法ともいえるわけです。