「ミスや失敗は、どんなに対策をしても起きてしまう」なら、転んでも、“ただ”では起きるなというコンセプトで執筆された書籍『ミスしても評価が高い人は、何をしているのか?』の一部を抜粋し、限られたリソースの中で結果を出していくためには、成功よりもミスや失敗を通して学んでいく方が、確実で効率も良いという理由を考えます。

※本稿は、飯野謙次『ミスしても評価が高い人は、何をしているのか?』(日経BP)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/kokouu)

失敗=マイナスという考えが負の連鎖を生む

ミスや失敗を繰り返している人・組織においては、ミスや失敗は「単なる叱責や落ち込みの原因」「単なるマイナス」でしかありません。

ただのマイナスとしてしか位置づけられなかったミスや失敗は、当事者全員にとって「悪いもの」でしかありませんから、個人も組織も「早く忘れたい」と思うようになります。その強い意思が働くことで振り返らなくなり、本当に忘れてしまった時点で、また同様のミスや失敗をしでかすわけです。

ミスや失敗を否定するのではなく、蓄積するという姿勢

失敗学においては、仕事を進めるうえで起こった重大なマイナスの事象については、その問題の本質は起こした担当者ではなく、業務手順にあるととらえます。

「実際にミスをしたのに、そんな発想は責任逃れだ」と思われるかもしれませんが、実はこの発想こそが、同様のミスや失敗を二度と組織が繰り返さないために、もっとも重要なポイントです。

そして実際、このような発想で業界そのものを変革した結果、ミスが極端に減った事例があります。それは、航空業界です。

私たちが乗る飛行機には、「ブラックボックス」が搭載されており、フライトデータとコクピット内のボイスレコーダーのデータが記録されています。航空業界で重大事故が起こった場合、乗員・乗客が全員死亡することも少なくないということを踏まえると、ここには航空業界のミスや失敗への姿勢がよくあらわれているといえます。

「どんな事故でも、原因を隠さず究明しよう」という発想、「ミスや失敗をきちんと蓄積して次に生かそう」という意識が他の業界よりも強いのです。

このようにミスや失敗の扱い方を変えたことによって、

・どこかでミスや失敗が1つ起こるたびに、同じミスや失敗が起こる可能性を下げられる
・ミスや失敗によって、かえって安全性がもたらされる
・ミスが起こる前より後のほうが、確実にシステムが向上している

というわけです。

ミス・失敗する→叱られる→謝罪・対応する→反省する→ミスや失敗を分析し、繰り返さない仕組みをつくる→仕組みに不備があり、またミスや失敗が起こる→叱られる→謝罪・対応する→反省する→再び分析し、仕組みをつくり直す→……

残念ながら、大きな挑戦であればあるほど、最初の挑戦で失敗やミスをして、備える仕組みをつくったとしても、次にすぐうまくいく、ということではありません。多くの場合、また失敗やミスが起こります。挑戦する組織は、「試行」「ミス」「分析」のループを何度も繰り返しながら、成功をする方策を探し続けているのです。この上向きのらせんこそが、組織や企業にとっての成長・レベルアップにほかなりません。

同様に個人においても、「こうすればうまくいかない」を蓄積できる人が、仕事を通して成長していける人であり、失敗やミスをするごとにその精度を高め、信頼を勝ち取っていける人といえます。さらにいえば、「こうすればうまくいかない」を適切に蓄積していく仕組みをつくることが、ミスや失敗を単なるマイナスにしないための方法ともいえるわけです。

うまくいくための確率を高めていける、組織や個人とは?

なお、成功のほうに目を向けた場合にも、失敗やミスをどう扱うかによって、その意味が変わります。

ミスや失敗を「なかったこと」にしてしまう組織や個人がなし得る成功の多くは、ミスや失敗の余地のないものか、あるいは、様々な幸運が重なったうえでの偶然的なものです。その成功は、多くの場合、再現性がなく、もう一度成功をしたいと思っても、再び幸運が訪れるのを待つしかありません。

また、うまくいくための確率を高めるために、周りを見ながら──つまり、情報を躍起になってかき集めて、市場やライバル組織の動向に最大限の配慮を払って──目標を設定し、失敗しないように、そろりと試行をすることにもなりがちです。勢いのある競合にはいつまでも追いつけないばかりか、あとからきた新手にも追い越されてしまいます。

一方、ミスや失敗を蓄積し、レベルアップできる組織や個人の成功には、ミスや失敗の余地のないものと、様々な幸運が重なったうえでの偶然的なものに加え、「失敗やミスの芽を摘んでいった先にある成功」という3つ目の要素が加わります。この3つ目の成功の特徴は、「経験に基づいたもの」であり、「再現性がある」こと。前のミスや失敗が、次の成功へのステップになっているということです。

ですから、ミスや失敗を蓄積していける組織や個人は、自らの経験によって、徐々に成功確率を上げていくことができる、というわけです。

成功者ほど「成功」に固執しないワケ

このようにお話しすると、「同じように学ぶなら、ミスや失敗ではなく、成功を通して学んでいきたいです」という方がいます。

飯野謙次『ミスしても評価が高い人は、何をしているのか?』(日経BP)

たしかに、ミスや失敗をするよりも、成功するほうが気持ちがいいですし、振り返るならミスや失敗よりも、成功事例を振り返りたい、という気持ちはわかります。しかし、前述のとおり、成功の中には「様々な幸運が重なったうえでの偶然的なもの」という、ラッキーな成功が少なからずあります。つまり、成功例をどれだけ分析しても、理由がない場合があるのです。

一方、ミスや失敗には、必ず理由があります。たとえば、東日本大震災における福島第一原子力発電所の事故のような、大規模な事故でもそれは同じです(ちなみに、1000人を超える関連死者を出したこの事故については、失敗学会では、その主な原因を、「起こり得ることがわかっていた巨大津波に対して、その対応を事前に訓練していなかったこと」と結論付けました。「トップの経営判断ミス」というヒューマンファクターも原因の1つです)。

あるいは、エクセルの入力ミスというような小さなことでも、「入力途中で話しかけられた」とか「元のデータを見間違えた」といった原因はあるわけです。ですから、成功事例を振り返る場合と失敗やミスの事例を振り返る場合では、得られる学びが、その質・量ともにまったく違います。

成功事例からは、「次回もこういうふうにしたら、もしかしたらうまくいくかもしれない」というあいまいな学びしか得られないのに対して、失敗事例からは、「このようにしたら、次回も失敗するだろう」という、比較的確度の高い情報を得られるのです。

これらの理由から、限られたリソースで結果を出していきたい私たちとしては、成功を見続けるよりも、ミスや失敗を見たほうが、より効率がよい、ということは確かでしょう。マクドナルドの創業者と呼ばれるレイ・クロックが、「成功はゴミ箱の中に」と言うように、多くの成功者が、その成功に固執しないのにも、同様の背景があるのです。

こうやって考えれば、ミスや失敗の発生は決してネガティブなことではなく、もっと高いレベルに移行するためのチャンスだといえます。もしミスや失敗がなければ、現状維持のループをいつまでもぐるぐる回り続けて終わってしまうかもしれないのです。