親の願いは叶えなくても大丈夫

「デイケアには行きたくないから、家にいる」
(え~。仕事休めないよ。ひとりにもさせられないし)

「○○とはこれ以上住みたくないから、お前と住みたい」
(話し合って決めたじゃん。弟の家も介護用にみんなで資金出してリフォームしたのに)

「他の施設へ移りたい」
(お父さんのためにって散々選んで、契約にもお金使ったんだよ)

年をとっていく親からは、無理難題が次々と出てきます。「親のわがままが辛い。でも育ててもらった恩があるし……」なるべく親の希望を聞いてあげたいと思うのが、子ども側の気持ちですよね。けれども、年数が経つほど、親の状態は悪くなるのが現実。最初のうちはまだ聞けていた希望も、どんどん聞けないレベルになっていきます。

無理をして親のわがままを聞いていくと、介護を続けられなくなってしまいます。そこで、介護の初めの段階で「親の願いを100%叶えよう」を捨ててしまいましょう。

「育ててもらったんだから」の圧に屈しない

介護で大切なのはとにかく無理をしないこと。親戚や主治医は「育ててもらった親なんだから」と親の味方をするかもしれません。でも一番大切なのは介護者の心。「持続可能な介護」の視点で、どうすればいいかを冷静に考えていくことです。

まずは親の希望を「叶えてあげられるもの」と「叶えられないもの」に分別するところから始めてください。その際、「仕事を辞めて実家で介護に専念して欲しい」など、本来「叶えられない」に入るはずの希望が、周囲からの「なぜ叶えてやらないのか」の声に追い詰められて、判断できなくなることがあります。

介護者は「これ以上は応えられない」のラインをハッキリと決めるのが大事。そこで、【3世代で考える介護】の考え方をご紹介します。

お子さんを持つ方はみな「子どもの幸せが自分の幸せ」「自分が子どもの幸せの障害になるのは嫌だ」と思っているのではないでしょうか。そう、介護される立場となって無茶な要求をする親も、かつては子どもであるあなたに対して同じように思っていたはずです。

親のわがままをどこまで聞いたらいいのか迷ったときには、「親と自分」だけでなくそこに「自分の子ども」を加えて3世代で考えてみてください。

All Aboutモヤフォー研究所『すててもやめてもうまくいく』(WAVE出版)

例えば、「仕事を辞めて家で自分の面倒を見てほしい」と親が言っている。周囲からも「そうしてやれ」と口をそろえて言われ、自分でもわからなくなった。そんな時には、「自分なら子どもを退職させてまで面倒を見てほしいと思うか」と、問いかけてみます。

答えはきっと「NO」ですよね。自分と子どもに置き換えて考えてみると。「将来自分が子どもにさせたくないことは、自分も親にしなくていい」という判断基準を持てるようになります。

わがままを言っているのも今の親の本心。とはいえ、「子どもの幸せが自分の幸せ」と思っていた昔の気持ちも親の本心。どちらも親の気持ちです。ではどちらを優先させればいいのか。

かつての親の気持ちを尊重することは、親として生きてくれたその人の存在を尊重することに繋がる、私はそう思います。

「子どもを思う親の気持ち」を優先することも、最後まで親を親でいさせてあげる本当の親孝行なのではないでしょうか。

写真=iStock.com

横井 孝治(よこい・こうじ)
介護アドバイザー

人呼んで「カリスマ」介護アドバイザー。2001年の夏、何の準備もなく始まった両親の介護。初めてのことに戸惑いながらも、懸命に模索する中で得た有益な介護情報を自ら発信・共有するため、介護情報サイト「親ケア.com」をオープン。現在は介護情報のスペシャリストとして、介護に関する執筆、講演活動などを精力的に行っている。