※本稿はAll Aboutモヤフォー研究所『すててもやめてもうまくいく』(WAVE出版)の一部を再編集したものです。
仕事を辞めても介護はラクにならない
「自分しか親を介護する人がいない」「仕事と介護の両立に疲れた」と仕事を離れ介護に専念する方は年間約10万人。
仕事を辞める決断をした方にアンケートを取ってみると、仕事を辞めた後の方が経済的にはもちろん、精神的、肉体的にも負担が増えたという結果となり、「仕事を辞めても介護はラクにならない」ということがわかりました。
仕事を辞めて毎日の介護に明け暮れ、親と向き合うだけの生活は、外の世界から遮断されてしまったかのような閉塞感や孤独感を感じるものです。100%意識が介護にしか向かないから、辛いことも100%引き受けることに。
仕事をしていたときには出来た、「ちょっと忘れる瞬間を持つこと」や「気晴らしをすること」が出来なくなってきます。
また、収入もなくなるので、経済的不安も押しよせます。基本的に人は仕事を辞めると不幸になってしまいがちなのです。
ひとりではどうにもならないのが介護
「介護=仕事を辞めなくてはいけない」という思い込みを捨てましょう。反対に、「仕事を辞めない」という強い意志を持つことが重要です。
今の仕事や生活を大事にしつつ、職場の人、上司、夫、親族、遠慮なく周囲に相談しサポートを受ける。また、さまざまな制度やサービスを利用するなど、あらゆる手を尽くして介護をしていきましょう。
ひとりではどうにもならないのが介護。ひとりで背負って仕事を辞めるのでは、無理をして自分がやられてしまうのが目に見えています。
介護を続けるためにも、自分の今の生活を守ること。仕事をし続けることが必要です。
介護の方向性を決める5つのステップ
「厄介ごと」扱いされやすい介護は、身内の中で気の弱い人に押し付けられがちですが、「自分が犠牲になればいい」と諦めるのは間違いです。「介護はひとりで出来るものじゃない」という大前提のもと、分担を決めていくという考え方で話し合いましょう。
家族みんなで支えるのが介護です。
「でも、何から始めたらいいのかわからない」という方のために、介護の方向性を決める5つのステップをご紹介します。
ステップ①「親の心身の状態」を把握する
要介護度、障害の程度などを把握して、在宅での生活に耐えられるかどうかが第一のポイント! 親がどこまでなら自力で出来るかを知ることが重要です。無理をするのは、要介護者にとっても家族にとってもマイナスです。
ステップ②「誰が介護するのか」を決める
親が自分の力だけで在宅で暮らせないのであれば、「誰が、何を、どの程度まで」支えていけるのかを考えましょう。そして、ひとりの人にすべての責任を押し付けないこと。
一般的に10年を超えることが珍しくない介護期間を乗り切るのは、皆が負担を分け合う態勢を作ることが重要です。
●きょうだいがいる場合
きょうだいそれぞれの状況を考慮しつつ、「誰が、何を、どの程度まで」できるのかを書き出していきましょう。その際、「長男だから親の面倒を見て当たり前」「長男の妻だから夫の親の面倒を見て当たり前」「大学まで行かせてもらったから」「子育てを手伝ってもらったから」とひとりに押し付けず、フラットな立場で考えるのがポイントです。
●ひとりっ子の場合
ひとりっ子の「全部ひとりで背負わなければ」というプレッシャーはきょうだいがいる方の比ではありません。まず介護はひとりでは無理というのを前提にして、親のきょうだい、その子どもたち(いとこ)など親族で分担出来るか話してみましょう。
そのとき、自分自身はリスクを背負わないのに、口だけ出してくるような親戚の意見は無視すること。無責任な意見に振り回されなくて大丈夫です。
ステップ③「さまざまな支援態勢」を把握する
介護保険や地域の社会資源にどんなものがあり、どう使っていけばいいかを知っていきましょう。長丁場になる介護を家族だけで支えていくことは現実的に極めて困難。自分の生活を守るために、公の制度を使いましょう。
まずは、どの地域にも一つはある「地域包括支援センター」へ相談を。地域における介護の情報がそろい、さまざまな介護制度の手続きが出来ます。
会社勤めの方は会社に聞いてみるのもお忘れなく。「介護休暇」や「介護休業」など介護を助ける制度が整っている会社はそれぞれの制度で65%以上と意外に多いのですが、知っている人は従業員の5%ほどなのです。まずは制度の存在を知ることが大切ですね。
ステップ④「いくらぐらいなら支払えるか」を考える
長期間におよぶことが多い介護を乗り切るために、どのサービスが、いくらかかるのかを調べましょう。親の年金や預貯金がどれくらいあるのかを知ったうえで、自分やきょうだいがどれくらいなら支払えるのか検討しておきます。
ステップ⑤「親がどこで暮らしたがっているか」を考慮
例えば親が「仕事を辞めて一緒に暮らして欲しい」と言ってきた場合。親の気持ちに寄り添おうとするあまり、我慢を強いられるような状態は長続きしません。
「仕事はやめられないけど、一緒に暮らせるよ」と同居または近くに呼び寄せるなど、親の希望を考慮したうえで落としどころを見つけていきます。
介護というと、実際に世話している「肉体労働」の部分だけが浮き彫りにされがちですが、それが介護の全てではありません。親やきょうだいの気持ちを知ること、会社や公の制度を調べること、分業を話し合うこと。肉体労働に至るまでの全てを含んで「介護」です。
介護の意味するところを広げ、ひとりの人が背負って苦しまないように、活用しながら家族全員、会社、地域全体で介護をとらえてみてください。
親の願いは叶えなくても大丈夫
「デイケアには行きたくないから、家にいる」
(え~。仕事休めないよ。ひとりにもさせられないし)
「○○とはこれ以上住みたくないから、お前と住みたい」
(話し合って決めたじゃん。弟の家も介護用にみんなで資金出してリフォームしたのに)
「他の施設へ移りたい」
(お父さんのためにって散々選んで、契約にもお金使ったんだよ)
年をとっていく親からは、無理難題が次々と出てきます。「親のわがままが辛い。でも育ててもらった恩があるし……」なるべく親の希望を聞いてあげたいと思うのが、子ども側の気持ちですよね。けれども、年数が経つほど、親の状態は悪くなるのが現実。最初のうちはまだ聞けていた希望も、どんどん聞けないレベルになっていきます。
無理をして親のわがままを聞いていくと、介護を続けられなくなってしまいます。そこで、介護の初めの段階で「親の願いを100%叶えよう」を捨ててしまいましょう。
「育ててもらったんだから」の圧に屈しない
介護で大切なのはとにかく無理をしないこと。親戚や主治医は「育ててもらった親なんだから」と親の味方をするかもしれません。でも一番大切なのは介護者の心。「持続可能な介護」の視点で、どうすればいいかを冷静に考えていくことです。
まずは親の希望を「叶えてあげられるもの」と「叶えられないもの」に分別するところから始めてください。その際、「仕事を辞めて実家で介護に専念して欲しい」など、本来「叶えられない」に入るはずの希望が、周囲からの「なぜ叶えてやらないのか」の声に追い詰められて、判断できなくなることがあります。
介護者は「これ以上は応えられない」のラインをハッキリと決めるのが大事。そこで、【3世代で考える介護】の考え方をご紹介します。
お子さんを持つ方はみな「子どもの幸せが自分の幸せ」「自分が子どもの幸せの障害になるのは嫌だ」と思っているのではないでしょうか。そう、介護される立場となって無茶な要求をする親も、かつては子どもであるあなたに対して同じように思っていたはずです。
親のわがままをどこまで聞いたらいいのか迷ったときには、「親と自分」だけでなくそこに「自分の子ども」を加えて3世代で考えてみてください。
例えば、「仕事を辞めて家で自分の面倒を見てほしい」と親が言っている。周囲からも「そうしてやれ」と口をそろえて言われ、自分でもわからなくなった。そんな時には、「自分なら子どもを退職させてまで面倒を見てほしいと思うか」と、問いかけてみます。
答えはきっと「NO」ですよね。自分と子どもに置き換えて考えてみると。「将来自分が子どもにさせたくないことは、自分も親にしなくていい」という判断基準を持てるようになります。
わがままを言っているのも今の親の本心。とはいえ、「子どもの幸せが自分の幸せ」と思っていた昔の気持ちも親の本心。どちらも親の気持ちです。ではどちらを優先させればいいのか。
かつての親の気持ちを尊重することは、親として生きてくれたその人の存在を尊重することに繋がる、私はそう思います。
「子どもを思う親の気持ち」を優先することも、最後まで親を親でいさせてあげる本当の親孝行なのではないでしょうか。