天才は脳の発達ピークが12歳

知能(IQ)レベルと最も関連する脳部位は、「前頭前野」と呼ばれる場所です。アメリカ国立衛生研究所のShowらは、前頭前野の皮質の成長パターンがIQレベルによって異なることを、「nature」に発表しています。この研究では、307人の子どもをIQテストの得点によって、「特に知能が高い:IQ121~149」、「知能が高め:IQ109~120」、「平均的知能:IQ83~108」、という3つのグループに分け、6~19歳までの皮質の厚さの変化とIQの高さの関係について調査を行いました。

驚くことに、7歳の時点で前頭前野の皮質が最も成長していた(皮質が厚くなっていた)のは、「平均的知能」と「知能が高め」の人たちで、「特に知能が高い」人はその人たちほど、脳が発達していませんでした。さらに驚くべきことは、実は、「平均的知能」の人では、7歳のこの時点が、前頭前野の発達のピークだったのです。一方、「知能が特に高い」人は、7歳から12歳程度まで一気に前頭前野が成長し、ピーク時(12歳前後)には平均的な知能の人のピークの時よりも脳はより成長しています。(図表1)

残念ながら、この研究では、7才までのその子たちの教育環境までは調べられておらず、平均的な知能の子と特に高い知能の子の7歳までの教育環境の違いまではわかりません。ただし、少なくとも、7歳の時点で脳の成長のピークが来るとIQが高くならないということは、早期育脳が一概に良いとは限らない可能性を示唆しています。

頭の良い子を育てようとしすぎてはいけない

かつて「優生学」として人種差別を含めた差別につながり、世間に受け入れられるものではありませんでしたが、IQは、(研究によって多少異なるものの)50%~70%以上が遺伝の影響と報告されています。また2017年には、IQの差を説明する遺伝子も発見されています。

頭の良い子になってほしいという思いを募らせ、自身にも子供に対しても大きなプレッシャーをかけそうになるとき、まずは自分(とパートナー)の能力を思い出してみることと、してあげられることは限られているのだから、と考えて気楽に子供の教育に関わる気持ちも大切なのかもしれません。

<参考文献>
・Shaw, P. et al. Intellectual ability and cortical development in children and adolescents. Nature 440, 676‐679 (2006)
・Guilford, J. P., The nature of human intelligence. N.Y. Wiley (1967)
・Jensen, A.R., Social class, race and genetics: Implication for education. American Educational Research Journal.,5,1‐42. (1968)
・Jensen,A.R., How much can we boost IQ and scholastic achievement?. Harvard Educational Review., 39, 1‐123. (1969)
・Sternberg, R.J., Beyond IQ;A triarchic theory of human intelligence. Cambridge University Press. (1985)
・Calvin, C. M. et al. Childhood intelligence in relation to major causes of death in 68 year follow‐up: prospective population study. Brit. Med. J. 357, 2708 (2017).
・Duckworth, A. L., Peterson, C., Mattews, M. D. & Kelly, D. R. Grit: Perseverance and Passion for Long‐Term Goals. Journal of Personality and Social Psychology 92, 1087‐1101 (2007).

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細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
東北大学 大学院情報科学研究科人間社会情報科学専攻 及び 加齢医学研究所脳科学部門認知行動脳科学研究分野 准教授

東京医科歯科大学大学院医歯学総合博士課程修了。博士(医学)。JSTさきがけ研究員、東京大学大学院総合文化研究科特任研究員などを経て現職。内閣府ムーンショット型研究目標9プロジェクトマネージャー、ウェルビーイング学会理事、Editorial bord member of Frontiers in Computational Neuroscience、仙台市教育局学びの連携推進室学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト委員会委員、日本ヒト脳マッピング学会広報委員、国立大学宮城教育大附属小学校運営指導委員などを務める。