歳をとると、なぜ片づけられなくなるか

実家に収納スペースが不足しているわけではありません。家は4DKの一戸建てで、かつては夫婦と娘2人の4人暮らしでした。娘が2人とも結婚して家を出て、数年前に父親に先立たれてからは、母親がひとりで暮らしていましたから、押し入れやクローゼットは使い切れないほどあったはず。それにもかかわらず、足の踏み場もない状態だったのです。この娘さんは思わずお母さんを「なにやってるの! この家を残してくれたお父さんやご近所に恥ずかしいと思わないの?」と、怒鳴りつけてしまったそうです。

するとお母さんは悲しそうな顔で、「ごめんね。そのとおりだよ。本当に、お父さんには申し訳ないと思っている。でもね、お母さん、どこから片づけていいかわからないのよ」と答えたそうです。

歳をとると誰でも、物事を計画的に進めるのが苦手になります。また、もったいないという気持ちが強くなる傾向もみられます。さらに、集中力も若い時ほど持続できないため、一度散らかり始めると片づけが間に合わなくなり、どんどんひどくなっていってしまうのです。

自宅をゴミ屋敷にしてしまう人のなかには強迫性障害(OCD)という心の病を患っている人もいますから、ただ叱りつけても解決にはつながりません。

片づけを親まかせにしない

部屋の中が片づいていないと、怪我をする確率が高くなることがわかっています。高齢になってから骨折をすると、そのまま寝たきりになるケースも多く、しかも認知症の発症リスクも高くなるため、なんとか片づけてもらいたいものです。

しかし、いくら本人に言っても「できないものはできない」のです。そのまま放置すれば、どんどん酷くなる一方で、やがてはテレビなどで取り上げられるゴミ屋敷になってしまうでしょう。

そうなれば怪我だけではなく、埃やカビなどによる健康上のリスクも高くなりますから、口を出すよりも先に手を出すことが大切です。つまり、片づけを親まかせにするのではなく、子どもたちや孫たちが一緒に片づけたり、プロの力を借りたりして元の状態を取り戻すことです。

たとえきれいにしたところで、片づける能力が衰えているわけですから、時間がたてばまた少しずつ散らかっていくでしょう。それならそれで、定期的に顔を出して片づけの手伝いをすればいいだけです。

こうすると、疎遠になりがちの親とのコミュニケーションも図れますから、「たまに片づけるのもいいものだ」と考えるようにしてください。