これらはコーヒーチェーン店のS・M・L・LLのサイズでも同じことが言えます。よく大きいサイズの方が分量当たりの価格が安いからお得だと言って大きなサイズを注文する人がいます。この行動は間違ってはいません。本当に飲みたいのであれば、あるいは飲めるのであれば、大きいサイズの方が割安になるのは事実です。ところが、これもさきほどのデザートビュッフェのコスト構造と同じで、サイズが大きい方が店の利益も大きくなります。むしろ飲めなくて残すぐらいなら最初から小さいサイズを選ぶのが賢明なのです。

無理して食べるのは決して良いことではない

食べ盛りの中学生や高校生ならともかく、ある程度の年齢の大人であれば食べ過ぎるということで体に良いことは何もありません。いくら甘いものやケーキが好きだと言っても、つい食べ過ぎてしまうとその日一日気分が悪かったり、場合によっては次の日まで胃がもたれてしまったりすることはよくあります。あげくは翌日に体重計に乗るとさらに大きなショックが待ち受けているということになりかねません。

結局、“せっかく食べ放題に来たのだから元を取りたい”という気持ちが災いし、逆にさらに大きな損を呼び込んでしまうということには注意しなければなりません。経済学では既に使ってしまっていて戻ってこないお金のことを埋没費用(=サンクコスト)と言いますが、デザートビュッフェの料金もそれに当たると言っていいでしょう。「せっかく高いお金を払ったのだから」といってサンクコストにこだわり過ぎると、“健康に悪い”というもっと大きな損をしてしまうということになりかねません。本来、サンクコストはもう戻ってこないお金ですから、それを考えてもしょうがないのです。

“食べない放題”もありかも……

もちろん、デザートビュッフェが悪いということではありません。好きなものを好きなだけ食べられるというのはとても幸せな気分になれるからです。私は67歳の男性ですから、さすがにデザートビュッフェに行くことはありませんが、ランチビュッフェや夜のディナービュッフェに行くことはよくあります。それは私の場合、ビュッフェは「食べ放題」ではなく、「食べない放題」だからです。和食の会席や、フレンチのコースの場合、全部いただくのは、年齢的に考えてちょっと量が多すぎるのです。時にはアラカルトですらボリュームが多いこともあります。ところがビュッフェの場合、自分の好きなものを食べられる量だけ取ることができます。つまり「食べない放題」ができるから良いのです。

デザートビュッフェも同じです。単純に損得だけを考えたら、単品の方がお得かもしれません。でもいろんな食べたいものを少しずつ楽しむことができる、しかも自分のペースで食べられる。さらには驚くほどたくさんのデザートが目の前に並ぶという充実感を味わうこともできる。そういったことができるのもビュッフェの楽しみ方ではないでしょうか。それによってストレスが解消できるとすれば、決して割高というわけではないと思います。

大切なことは単にお金の損得だけで考えるのではなく、自分にとっての満足感は何かを考えることが大事なのではないでしょうか。

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大江 英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト

大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。