父親の育休取得とその後の育児参加の関係
ノルウェーやスウェーデンといった国々では、お父さんだけが取ることのできる育休を用意しましたが、この目的は「イクメン」を増やすことにありました。これらの国々でも以前は、育休は女性が取るものとみなされていて、育休取得率には大きな男女差がありました。これが、家庭内のみならず社会における男女の役割分担を固定化するという心配から、お父さんの育休取得を政策的に促したわけです。
北欧の国々での育休改革は、たしかにお父さんの育休取得を大幅に増やしました。では、その結果、期待通りに「イクメン」は増えたのでしょうか。
スウェーデンでは、12歳までの子どもが病気をした場合には、育休と似たような形で、親は看病休業を取ることができます。給料の75~80パーセント程度が手当として支払われ、子ども一人あたり年間60日まで取ることができます。
スウェーデンでは、子どもの看病のために仕事を休むのは普通のことで、2歳児で見ると、65パーセントの子どもは少なくとも一方の親が休業を取っています。大きくなるにつれて、子どもが病気をすることは減りますから、それにともなって両親の休業も減っていきます。
研究では、育休改革の結果、お父さんが子どもの看病のための休業を取るようになったかどうかを検証しています(7)。お父さんの看病休業が増えていれば、「イクメン」化が進んだとみなそうという考え方です。
研究によると、スウェーデンの1995年の育休改革では、お父さんの育休取得日数の平均は30日から45日へと50パーセントも増えました。しかし、子どもの看病のための休業はほとんど変化しませんでした。
お父さんの育児と家事への参加を、子どもの看病のための休業だけで測ることができるかという疑問は残るものの、この論文の著者らは、お父さんが育休を取ることと、その後も「イクメン」であり続けるかどうかは必ずしもつながらないのだと結論づけています。
父親の育休取得がこの偏差値を上げる?!
関連した研究はノルウェーでも行われました。ノルウェーの研究では、データの制約のため、お父さんがどの程度、家事や育児に関わっているのか直接検証することはできませんでしたが、お父さんの育休取得が子どもの発達に与えた影響を知るために、子どもの学校での成績に着目しています(8)。この研究によると、1993年の育休改革の結果、お父さんの育休取得が増えました。そして、お父さんが育休を取得した場合、子どもが16歳になったときの偏差値が1ほど上がったそうです。
なぜたった数週間のお父さんの育休取得が、16歳時点での子どもの成績に影響しうるのでしょう。論文の著者らは、わずかな育休取得でも、ライフスタイルに大きな影響を与え、お父さんが子育てに熱心になった可能性を重視しています。また、心理学の知見によると、生後1年間の親子のふれあいが、その後の長期にわたる親子関係に大きな影響を及ぼすことを引用し、短い育休取得でも子どもへの影響が持続しうると論じています。
この研究では、両親と子どもの関わりを直接検証しておらず、実際に何が起こったのかをうかがい知ることができないため、著者らの説明を鵜呑みにすることはできません。しかし、お父さんの育休取得は世界全体でもあまり進んでおらず、そのため、お父さんの育休取得の子どもに対する影響はほとんどわかっていませんから、その意味では貴重な研究です。今後、研究の蓄積が進むにつれて、先に述べたような欠点も克服され、より詳しい理解にたどり着くことが期待されています。
(1)Dustmann C, Schonberg U. Expansions in Maternity Leave Coverage and Children’s Long‐Term Outcomes Christian. Am Econ J Appl Econ. 2011;4(3):190‐224.
(2)Danzer N, Lavy V. Paid Parental Leave and Children’s Schooling Outcomes. Econ J. 2018;128(608):81‐117. doi:10.1111/ecoj.12493
(3)Baker M, Milligan K. Evidence from Maternity Leave Expansions of the Impact of Maternal Care on Early Child Development. J Hum Resour. 2010;45(1):1‐32. doi:10.3368/jhr.45.1.1
(4)Liu Q, Skans ON. The Duration of Paid Parental Leave and Children’s Scholastic Performance. B E J Econom Anal Policy. 2010;10(1):1‐33. doi:10.2202/1935‐1682.2329
(5)Rasmussen AW. Increasing the length of parents’ birth‐related leave: The effect on children’s long‐term educational outcomes. Labour Econ. 2010;17(1):91‐100. doi:10.1016/j.labeco.2009.07.007
(6)Carneiro P, Løken K V., Salvanes KG. A Flying Start? Maternity Leave Benefits and Long‐Run Outcomes of Children. J Polit Econ. 2015;123(2):365‐412. doi:10.1086/679627
(7)Ekberg J, Eriksson R, Friebel G. Parental leave ── A policy evaluation of the Swedish “Daddy‐Month” reform. J Public Econ. 2013;97(1):131‐143. doi:10.1016/j.jpubeco.2012.09.001
(8)Cools S, Fiva JH, Kirkebøen LJ. Causal Effects of Paternity Leave on Children and Parents. Scand J Econ. 2015;117(3):801‐828. doi:10.1111/sjoe.12113
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内閣府・男女共同参画会議議員、朝日新聞論壇委員なども務める。1999年慶應義塾大学商学部卒業。2001年同大学大学院商学研究科修士課程修了。2006年アメリカ・ウィスコンシン大学経済学博士(Ph.D.)取得。カナダ・マクマスター大学助教授、准教授、東京大学准教授を経て2019年より現職。専門は労働市場を分析する「労働経済学」と結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」。『「家族の幸せ」の経済学』(光文社新書)で第41回サントリー学芸賞を受賞したほか、ダイヤモンド社 ベスト経済書2019 第1位に選出。近著に『子育て支援の経済学』(日本評論社)。自身のホームページやツイッター(@sy_mc)でも、多数の情報発信を行っている。