専業主婦を支えられる30代男性は3人に1人

2015年時点で、夫婦と子ども2人の4人世帯における標準生計費は月額31万円程度です。標準生計費に、税と社会保険料などの固定支出が加わる(貯蓄ゼロと仮定します)と、専業主婦家庭ならば、夫は年間476万円を最低限稼ぐ必要があります。仮に夫が年間2000時間(常用労働者の平均労働時間に相当)就業する場合に、その時給が2380円以上になることが平均的な暮らしを送る条件となります〔詳細は、周燕飛(2017)「日本人の生活賃金」アジア成長研究所ワーキングペーパーNO.2017-15を参照〕。

ところが、最近の全国調査によれば、この収入基準をクリアしている男性世帯主は4割強しかありません。比較的若い年齢層に限ってみると、「専業主婦」モデルを支えるほどの稼得力(稼ぐ力)を持つ男性世帯主の割合は、20代では5人に1人、30代では3人に1人程度です。大学・大学院卒の高学歴者と正社員の男性世帯主は、収入状況の面で平均よりやや恵まれているものの、上記の収入基準をクリアできる者は、やはり全体の半数程度に過ぎません。

専業主婦世帯が中流の暮らしを維持するために必要な収入を稼げる男性世帯主が大きく減少したにもかかわらず、「専業主婦」モデルは健在です。その結果、専業主婦層内部での格差や貧困など、社会のひずみがますます拡大しているのです。

「貧しさの象徴」となった専業主婦

低収入層の専業主婦家庭における生活が厳しいものであることは想像に難くありません。(中略)

統計をみても、専業主婦率がもっとも高いのは、世帯収入のもっとも高い階層ではなく、収入のもっとも低い階層です。図表2は、夫婦双方の収入を含む世帯収入の階級別で妻の無業率を示しています。具体的には、子どものいる世帯を収入の高い順に並べ、およそ10等分して10個のグループを作り、それぞれのグループにおける妻の無業率を比べてみました。その結果、下位10%の収入グループ(第1十分位層)では専業主婦率が43%に達しています。一方、上位10%の収入グループ(第10十分位層)の専業主婦率は16%に止まっています。

世帯収入の階級別、既婚女性の無業率

この調査では全体の専業主婦率は28%であるため、専業主婦世帯が最下位収入層に多く、上位収入層(第7十分位層~第10十分位層)には少ないことがわかります。夫の稼ぎだけでは、専業主婦世帯は、最貧層になりやすく、高収入層への仲間入りが難しいという現状が窺えます。「専業主婦は裕福の象徴である」というイメージとは裏腹に、これは、「専業主婦は貧しさの象徴である」とも読み取れる調査結果です。