大人を“試す”子どもたち
それまでも、学校の先生や友達の親や近所の大人が「大丈夫?」と心配してくれたことはあった。「ひょっとしたらこのひとは助けてくれるかもしれない」と期待したくなる。でもそういうひとたちも、最終的には助けてくれない。そこまで徹底的に寄り添ってはくれない。そういう経験を何度かすると、世の中のすべての大人に対して期待をしなくなってしまう。
それで、シェルターに来てしばらくは本当の意味では警戒心を解かず、大人の様子を観察する。
でもしばらくするとちょっと心を開きはじめる。そのとき子どもたちはまったくの無意識から、大人たちを試しはじめる。嘘をつく、暴言を吐く、拒食する、ひきこもる、不眠を訴える、リストカットをしてみるなど。そうやって、優しそうに見える大人たちの本気度を確かめるのだ。
共依存体質の子がおこす「巻き込み」とは
もっとやっかいなのは、複数のスタッフそれぞれに別のスタッフの悪口を言うケースだ。そうやって、一枚岩に見えるスタッフの人間関係にひびを入れる。すると未熟な大人は「私だけがこの子を守ってあげられる」と勘違いする。そうやって大人をコントロールしようとするのだ。人間関係を「支配─被支配」の関係でしかとらえることができないから。共依存体質のひとによく見られる「巻き込み」という、不適切な人間関係の構築方法を試みるのである。
巻き込まれてしまった大人は翻弄される。その大人に無理を言い、自分の要求が認められないと、「やっぱりあなたも私を見捨てるのね」という伝家の宝刀で脅す。
くり返すが、これらはすべて、自分を守るため、安心したいために、無意識的に行われるテストなのである。