供託金もハードルになっている

もちろん、人々の意識はそう簡単に変わるものではありませんから、そうした意識の変革を制度で後押しする必要があると思います。たとえば、男性・女性を問わず自分のパートナーが議員に立候補するという場合に、会社が休暇取得を認めやすくするとか、工夫できることはいろいろあるような気がします。

また、国会議員の立候補に際して300万円(選挙区の場合)もの供託金を納めなければならないという現行の供託金制度については、以前から男女を問わず立候補の権利を不当に制限するものとして批判されていますが、この際、男女の賃金格差、所得格差に鑑みて、女性の立候補を促進するという視点からも、見直しを図るべきです。

当選確率に10ポイントの開き

ただし、仮に多くの女性が立候補するようになったとしても、女性の議員がそれに比例して増えるとは限りません。なぜなら、日本では一般に男性の候補者のほうが女性の候補者よりも当選しやすいという状況があるからです。今回の参院選においても、男性候補者の当選確率は36.1%でしたが、女性候補者の当選確率は26.9%と、10ポイント近くの差がついています。その背景には、そもそも現職が有利で、その現職に男性が多かったこと、最大政党の自民党と強固な支持基盤を有する公明党に女性候補者が少なかったことなど、さまざまな要因があるのは事実です。けれども、政治の世界ではいまだに昔ながらの「男は外で働き、女は家を守るべき」「女はでしゃばるな」的な価値観が好まれる傾向があり、それが女性の政治への進出を阻んでいるという側面も少なからずあるような気がします。

妻ではなく家内と名乗らせる古い習慣

たとえば、POVというアメリカのドキュメンタリー制作会社がYouTubeで公開している「選挙活動―日本の選挙戦略(Campaign - Japanese Election Strategies)」という動画の中に、比較的若い男性の候補者の妻が、選挙運動を仕切っている年配の人々から、自分のことを候補者の「妻」ではなく「家内」と名乗るように指示を受けるシーンがあります。この選挙がいつ行われたものかははっきりしませんが、動画が公開されたのは2015年のことで、それほど遠い昔ではないようです。実際、「家内」と名乗るように言われた女性は少し違和感を覚えているようでしたが、それを指示した男性はもちろん、その傍らにいて相槌を打った女性も、それは当然であるといった感じでした。このやり取りについてPOVは何もコメントを加えていませんが、短いドキュメンタリーの中でこのシーンをわざわざ詳しく取り上げているのは、それがとても日本的であると感じたからでしょう。