長時間労働が常態化する背景

そのような長時間労働を是正しようとしても、そう簡単には進まない。上の世代から受け継ぎ、職場のカルチャーや習慣としてしみこんでしまっていることが多いからだ。

普通にやっていれば、普通の業績しか上げられない。普通以上の業績を上げようと思えば、その分労働時間を長くしようと考えてしまう。そうして長時間労働を行った結果、福永のように管理職に昇進している人もいる。ゆえに部下に対しても、仕事ができないのであれば労働時間を長くしてでも業績を上げるべきだと思っている。部下も業績が上がらないのに、労働時間を短くすることに罪悪感があるし、特に真面目な“プレッシャー世代”は労働時間を増やしてでも期待に応えようとしてしまう。

中でも顧客に寄り添い、無理難題でも何とか解決できることを強みにし、労働時間が長いのが自分たちの競争優位の源泉となっている会社の場合、人事評価の基準も組織風土も長時間労働を賞賛するようになっている。そういう会社においては、本質的に労働時間を短くしていこうという議論になりにくい。本音として、健康に支障がない範囲で頑張れというのがせいぜいである。これだけ働き方改革が叫ばれても、そうした職場は根強く残っているのが現実なのだ。

私たちは有償労働に偏りすぎている

このような環境下において、自分の意思を貫いて定時で帰るのは難しい。

改めて、このドラマのそれぞれの役の働く理屈に入り込むと、「働く」意味を考えさせられる。「なんのために働いているのだろうか」「どのくらいの時間働くのが適切だろうか」「生活の中での仕事の比重はこれでいいのだろうか」といったことだ。

そして私たちの生活時間は有償労働に偏りすぎていて、人としてもつべき家族との時間、地域活動やボランティアを行なう時間、余暇の時間が削られているということにも気づかされる。

面白いことに、主人公の東山は、他者の働き方や仕事観に対して否定的でない。それぞれの働き方や仕事観を認めている。その上で、人に迷惑をかけることなく、定時で帰ることを貫いている。東山のように、自分らしさを貫くには、他者を認めることが必要だ。返報性の法則で、他者から理解されようと思えば、まず他者理解から始めるのが王道である。その点で福永のようなブラックに見える働きぶりは、それ自体も問題だが、仕事一辺倒の生き方・価値観を若い世代にも強いようとすることは、組織全体の健全性を阻むなど、より大きな問題をはらんでいると言える。

1 日本能率協会総合研究所(2005)『厚生労働省平成16年度委託調査 賃金不払残業と労働時間管理の適正化に関する調査・研究報告書』
2 大竹文雄・奥平寛子(2008)「長時間労働の経済分析」『REITI Discussion Paper Series 08-J-019』経済産業研究所
3 リクルートマネジメントソリューションズ(2019)『2019年新入社員意識調査
4 OECD Databese “Average annual hours actually worked per worker”によると、1980年代後半まで2100時間で推移していたが、その後、減少し続け、2014年には1729時間になっている
5 山本勲・黒田祥子(2014)『労働時間の経済分析―超高齢社会の働き方を展望する』日本経済新聞出版社
6 リクルートマネジメントソリューションズ(2017)「長時間労働に関する実態調査

古野庸一(ふるの・よういち)
リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 所長
1987年東京大学工学部卒業後、リクルートに入社。南カリフォルニア大学でMBA取得。キャリア開発に関する事業開発、NPOキャリアカウンセリング協会設立に参画する一方で、ワークス研究所にてリーダーシップ開発、キャリア開発研究に従事、2009年より現職。週末にはスペシャルオリンピックスの活動に従事。近著に『「働く」ことについての本当に大切なこと』(白桃書房)がある。

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