残業する理由、しない理由、できない理由
三谷は、定時で帰る東山には否定的であり、最近の新人の“ゆるさ”を許せない性分である。有休もとらずに、長時間労働をしてしまう。「休めば居場所がなくなる」という理屈である。必ずしも好きで仕事をしているわけではない。
さらに、双子を育てるワーキング・マザーの賎ヶ岳八重(内田有紀)、仕事の効率が悪く、会社に寝泊りする吾妻徹(柄本時生)、責任を回避し、辞めたがりの新人男子の来栖泰斗(泉澤祐希)が主人公を取り巻いている。
ここ数年の新入社員調査によると、最近の新入社員は、「お互いに鍛えあう」よりも「お互いに助け合う」職場を好み、「相手の意見を聞いて、丁寧に指導してくれる」上司が理想だと考えており、その傾向はまさに来栖のキャラクターに反映されている(3)。そんな来栖は東山の「残業しない主義」の唯一の支持者である。
それぞれにそれぞれの歴史があり、それぞれの理屈がある。その理屈は、視聴者の働き方や仕事観に重なる。あるいは、視聴者の周りにいる人々と重なり、ドラマが身近なものになっている。
若手正社員の8割~9割は定時で帰れない
定時で帰りたいのに定時で帰れないから、ドラマになるわけであるが、そもそも定時で帰れない人はどのぐらいいるのだろうか。
日本人の平均年間労働時間は、減少している(4)。その主要因は、非正規社員の増加である。非正規社員には、パート・アルバイトなどの短時間勤務者が多く含まれており、その割合が増加したことが、日本人全体の平均労働時間を減少させている。
一方で、フルタイム雇用者の労働時間は、週平均50時間程度であり(5)、東山のような若者(20~30代)に限定すると、男性の約9割、女性の約8割が日常的に残業しており(6)、定時で帰れない若者が多数いるのが実態である。