値札の書き換えにだまされてはいけない
そんなバーゲンセールに潜む心理的な罠、その一つが「値札の書き換え」です。バーゲンセールの場合、全店3割引とか50%OFFといった札があちこちにぶら下がっています。それに加えて、実際の商品を見ると5万円という値段を線で消して2万9800円といった具合に新しい値段が書き加えられていることもあります。率で言われるよりも実際の金額で示された方が、インパクトが強いからです。しかも3万円というのと2万9800円とではたった200円しか違わなくても大台が違う分、安くなっているという印象が強くなります。
それに、もし元の値段の5万円が本当の値段でなかったとしたら? つまり元々3万円程度のものであったものが、値引き率を大きく見せるためにわざと5万円と書いて線で消してあったとしたらどうでしょう? バーゲンが始まる前の値段を覚えている人でなければ、まずそのことに気付かないでしょう。顧客を勧誘するために実際の販売価格と異なる表示をすることは「不当表示」といって、景品表示法で禁止されていますから、そんなことは無いと思いますが、ひょっとしたら悪質なお店では行われているかもしれません。
「アンカリング効果」を使ったワナ
行動経済学では、「アンカリング効果」というのがあります。アンカーというのは船のイカリのことですが、そのイカリを下ろすことをアンカリングと言います。この場合、最初に示されている値段がアンカーになり、判断の基準値となります。その基準値よりも大幅に低く表示されることで、お得感が増してくるという仕掛けです。
もちろん本当に値段を下げているのであれば、消費者にとってはありがたいのですが、さきほどのように実際よりもわざと高く表示したものを大きく割引しているかのように見せる違法行為には注意が必要です。また、アンカリング効果を使ったやり方には別な方法もあります。それが二つ目のお話、「セール対象外商品」の存在です。
「セール対象外商品」をつくる意図
バーゲンセールをやっているお店に行くと、商品の陳列棚のところの一角に「セール対象外商品」というコーナーを作っている場合があります。それもしばしば、よく目立つところにおいてあるのです。でも考えてみるとこのセール対象外商品というのは不思議な存在です。そもそも買いに来るお客さんはほとんどがバーゲンで値段が下がったものを探しに来ているわけですから、そんな時にわざわざ定価で値下げしていない商品を買うことはあまりないでしょう。
それに、前にもお話したようにバーゲンセールというのは少しでも商品の在庫を減らして、お店の損失を少なくするためにやるわけですから、お店にはできるだけたくさん売れ残った商品を並べようとするはずです。にもかかわらず、そんな貴重な限られたお店のスペースに、どうしてそれほど売れるとは思えない、定価の「セール対象外商品」を置いているのか? 私はここにもアンカリング効果の狙いがあるのではないかと考えています。
それは、同じ店の中に定価の商品と値下げした商品を並べておくことで値下げされた商品のお得感が出てくるからです。もちろんセール対象外商品は新製品ですから値打ちがあるので定価だということは誰もが理解しています。しかしながら、数カ月遅れ程度であるのなら、そんなに値打ちが違うことはないでしょう。それなら値段の安い方が良いと考えるのは自然です。「あ、セール対象外に比べるとこんなに安いんだ!」といって購買意欲が刺激される可能性が高まることも考えられます。