男性の育児休暇義務化が話題になっていたところに、カネカの問題が炎上。議論を呼んでいます。家事・育児の分担や家族のあり方を研究してきた立命館大学教授の筒井淳也先生は、とくに日本で男性が育休を取るためには「育休を仕方なく取る状況が必要」と話します。その理由とは。

「仕方なく育休を取る」という状況を作る

男性の育休義務化の動きが出ているのは、基本的には良いことだと考えています。とくに日本は、義務化をして「育休を取らないといけない」という状況を作る必要があると思います。

例えば日本の職場では「定時」が意味をなしていないのも同じ。まわりの様子を見ながら、皆なんとなく残業をしています。しかし、もし上司が「定時に帰れ」と言えば、「本当は残業をしたいけど仕方ないな」と、帰る理由ができる。男性の育休も、義務化をして「仕方なく取る」という状況を作ってあげたほうが、うまく回るのではないでしょうか。

現状だと女性も義務ではなく「会社に申し出れば休業ができる」という制度なので、義務化する場合は男女両方になると思います。現状だと、男性の育休はオプショナルな「プラスアルファ」的な位置づけです。母親が育休を取得した場合に父親も取ると、追加で少し延長ができる「パパ・ママ育休プラス」という制度があります。

義務化するなら、例えば「育休期間が1年のうち、最低何カ月間は父親が休む」といったルールがいいかもしれません。現実的に考えると、1年間のうち2カ月ぐらいに落ち着くような気がします。男性の育休取得率は、2017年時点では5.14%。これに鑑みると、2カ月でもインパクトが大きいです。働き方を変えないといけないですし、会社側にも覚悟が必要。

実際には、経営に余裕のある企業でないと男性育休は難しく、特に中小企業からは「無理だ」という声が出てきそうです。実現の可能性は低いかもしれませんが、もし本当に義務化することになった場合、企業規模によって期間を変えるなどの仕組み作りが行われるでしょう。それでも、男性の育休取得率が非常に低いので、試しにやってみてもいいのではないでしょうか。

義務化だけではワンオペは解消しない

どんな制度もそうですが、制度さえ整えれば勝手に上手く回っていくわけではありません。本当に家事育児の分担を進めたいのなら、男性への家事育児の教育・訓練がないと難しいでしょう。

過去には、多くの女性が専業主婦だった時代が20~30年ほどあって、1980年代ころから徐々に、主にパートタイマーとして女性が労働市場に出ていきました。男性と同じ条件で働く女性が増え始めたのは1990年代になってからです。当時男性は、男性的な働き方をしている職場に女性が入ってきて、どう対応したらいいのか戸惑ったと思います。男性の家事育児も同じことで、親世代も含めて20~30年ほど男性が家のことをやってこなかった時代があるので、知らない世界に行かなければいけないし、女性側もどう対応していいか分からない。これまでの「女性の社会進出」と、これからの「男性の家庭進出」で、同じように問題が生じると見ています。