自分の持っているものを高く評価したくなる心理

これで、数字だけ見れば現金値引きの方が明らかにお得だということがお分かりになったでしょう。ところが、恐らくこう考える人が多いでしょうね。「う~ん、それはそうかもしれないけど、でもやっぱりポイントの方が良いような気がするわ。だってその方が楽しみだもの」。いくら現金値引きの方が得でも、実は多くの人はポイント還元の方が好きなのです。そしてその理由は「保有効果」という心理的な傾向にあります。

「保有効果」というのは、自分が持っているものについては高い評価をしがちになることです。10万円の買い物をして1万円を現金で返してもらったとします。その時はうれしいでしょう。でもいったんそのお金が財布の中に入ってしまったら、他のお金と一緒になってしまうので、帰りにご飯を食べたり、洋服を買ったりするときに使いますから、いつの間にか消えてしまいます。

ところがポイントは自分がそれを使うまでは残りますから、ポイント残高を確認するのは預金通帳を見るのと同じような気分になるのです。「よーし! たくさんポイントを貯めて、高額商品を無料で手に入れるわよ!」と考え、貯まっていくポイントを眺めながら内心ワクワクするという楽しみが出てきます。それを楽しみにしている人は結構多いのだろうと思います。実際、家電量販店のレジで順番を待っていると、前で店員さんとお客さんとのこんなやり取りが聞こえてきます。

店員:「ポイント貯まっていますが、どうしますか?」
お客:「いいわ、そのままにしておいて」

このように、貯まっているポイントを使わずにさらに貯めようとする人が多いのです。つまり貯めることが楽しみになり、それが目的になりがちなのです。でもこれでは本末転倒です。

ポイントは余分な買い物をさせる心理作戦

本末転倒ということで言えば、ポイント還元には「選好の逆転」という心理的な現象も起こります。「選好の逆転」とはどういうことか。ポイントというのはあくまでも“おまけ”にすぎません。本来ならば買い物をするときには「その品物が良いかどうか」、そして「それを買うならどこで買えば一番安いか?」といったことを検討するのが普通です。ところが、ポイントというおまけがついた途端にそのおまけ欲しさに余分な買い物をしてしまいがちになります。つまりおまけであるはずのポイントが、選ぶ際の主な基準になってしまうことを行動経済学では「選好の逆転」というのです。他のお店で買った方が安く買える場合でもポイントの付く店でしか買い物をしない。これではまさにポイント還元をやっているお店の思惑通りであり、まんまと乗せられていることになります。

つまりポイントは、“貯めたくなる”という人間の心理をうまく利用し、かつ余分な買い物をさせるための心理作戦と言って良いでしょう。もちろん、買い物をしてポイントが付くのなら、それは悪いことではありません。でも正しいポイントの使い方、それは買い物をしてポイントが付いたら、それを貯めることをせず、次回の買い物の時に全部ポイントを使ってしまうことです。なぜなら、ポイントはいくら貯めても金利が付くことはありません。それに貯めれば貯めるほど、「使うのがもったいない」とか「もっと貯めよう」という気分になって無駄な買い物をしてしまうということにもなりかねません。まさに「保有効果」と「選好の逆転」の罠に陥ってしまうということになります。おまけに貯めているうちに有効期限が来てしまってポイントが無効になってしまうということも起こり得ます。

このように、ポイントを貯めることにこだわり過ぎることによって無駄な買い物をし、「ポイント貧乏」にならないように注意することが大切ですね。

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