ブラック企業よりブラックな組織、PTA

東京23区に住む、小学1年と保育園年長の子どもを持つ由紀さん(44、仮名)は、小学校で初めての保護者会に参加した。教育方針など学校側の説明をしっかり聞いておくため、有給を取って臨んだというのに、担任は教室に3人のPTA本部役員が乗り込んでくるや、さっさと教壇を明け渡した。1人が教壇に立ち、残り2人が前と後ろの扉の前に立つ。出入りの自由を奪われ、こう告げられた。

「これから、このクラスのPTA役員決めを行います。決まるまで、全員、帰れません。いいですね」

由紀さんは予想もしない展開に心底、驚いた。

「下の子の保育園、上の子の学童のお迎え、間に合わなかったどうしよう」

役員はさらに、こう付け加えた。

「6年間で最低1回、できれば2回、役員をやってもらいます。皆さん、平等にやってもらうのが原則です。フルで働いている、小さな子どもがいる、ひとり親、介護中など、個々の事情は、一切、考慮しませんから」

由紀さんの驚きはさらに募る。

「イマドキ、個別の事情を考慮しないって、どれだけブラックなのよ~!」

保護者会は年々ギスギスを強める

こうした光景は日本全国、往々に見られることだ。立候補がなければくじ引き、じゃんけんなど、欠席裁判も構わないランダムな人選が行われ、1年間、PTAのために身を粉にして働く人間が確保される。いつ、どの学年で役員をやったのか、個々の「閻魔帳」を配布されて、役員決めが行われているところさえある。

この「誰でも平等に」という強制圧力の裏にあるのは、「私はこれだけやった」「どれだけ大変だったか」「やらないのはズルい」……といった、憤懣(ふんまん)渦巻く収まらない感情だったりする。こうした訳のわからない嫉妬や妬みが、「平等」を強いる本音だったりするわけだ。少なくとも、子どものためでは決してなく。おまけに、PTAで自己実現を図りたい一部の母親たちが、同じようにやれと同調圧力をかけてくることも往々にしてある。

こうした悪しき平等主義の下、働く母親たちの余裕の無さや、専業主婦との深まる溝などと相まって、年々、年度初めの保護者会はギスギスした状態になってきている。

多くの母親たちは、子どもが人質に取られていると感じている。だからしょうがない、逆らえない。そうして意に反してまで、役員を引き受けてしまう人もいる。

しかし、この認識自体が大間違いなのだ。PTAとはやりたい人だけが加入すればいい任意団体で、全員を「軟禁」しての強引な役員決めなど、あってはならないことだ。