この季節、小学生以上の子どもを持つ親を憂鬱な気持ちにさせるもの、PTA。とくに役員決めが行われる年度初めの保護者会は戦々恐々とした雰囲気になる。『PTA不要論』著者でノンフィクション作家の黒川祥子さんは、「役員決めの保護者会は年々ギスギスしてきている」という。ここまで親を苦しめるPTAとは何者なのか?

PTAの恨みつらみがあふれ出す

「卒業してよかった」と、心から思えるものがある。それが、PTAだ。理不尽な思いに苛まれたり、意味のわからない時間を強いられたりしないで済むのだと思うと安堵しかない。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/RapidEye)

こうした感情を抱くのは、私だけでない。私より10も上の、大昔に卒業した世代でさえ、PTAという言葉に触れた途端、堰を切ったように恨みつらみがあふれ出す。

なぜ、母親たちはこれほどまでに、PTAというものに厄介な感情を抱いているのだろう。一昨年秋からPTAを取材し、1冊にまとめる過程で、多くの女性たちが抱くPTAに対する複雑な感情には根拠があったと、はっきり思った。期せずして『PTA不要論』というタイトルに落ち着いたのだが、これこそ、取材・執筆の過程でたどり着いた結論だった。

一体、PTAとは何ものなのか? これから3回に分けてひもといていこうと思う。

恐怖の保護者会

新年度を迎えるにあたり、多くの母親たちは憂鬱極まる思いに苛まれる。関門は、最初の保護者会にあることも重々、承知だ。母親たちが戦々恐々と身構えざるを得ないもの、それがPTAの役員決めだ。

できる人が手を挙げ、すんなり決まればありがたいが、そんなことは滅多にない。今や、多くの母親たちがフルで働き、ワンオペ育児に振り回される中で、一体、どこにPTAに割く時間などあるのだろう。だから誰もがじっと貝のように口を閉じ、自分以外の人にお鉢が回ることをひたすら願う、拷問のような時間が流れるのだ。

ブラック企業よりブラックな組織、PTA

東京23区に住む、小学1年と保育園年長の子どもを持つ由紀さん(44、仮名)は、小学校で初めての保護者会に参加した。教育方針など学校側の説明をしっかり聞いておくため、有給を取って臨んだというのに、担任は教室に3人のPTA本部役員が乗り込んでくるや、さっさと教壇を明け渡した。1人が教壇に立ち、残り2人が前と後ろの扉の前に立つ。出入りの自由を奪われ、こう告げられた。

「これから、このクラスのPTA役員決めを行います。決まるまで、全員、帰れません。いいですね」

由紀さんは予想もしない展開に心底、驚いた。

「下の子の保育園、上の子の学童のお迎え、間に合わなかったどうしよう」

役員はさらに、こう付け加えた。

「6年間で最低1回、できれば2回、役員をやってもらいます。皆さん、平等にやってもらうのが原則です。フルで働いている、小さな子どもがいる、ひとり親、介護中など、個々の事情は、一切、考慮しませんから」

由紀さんの驚きはさらに募る。

「イマドキ、個別の事情を考慮しないって、どれだけブラックなのよ~!」

保護者会は年々ギスギスを強める

こうした光景は日本全国、往々に見られることだ。立候補がなければくじ引き、じゃんけんなど、欠席裁判も構わないランダムな人選が行われ、1年間、PTAのために身を粉にして働く人間が確保される。いつ、どの学年で役員をやったのか、個々の「閻魔帳」を配布されて、役員決めが行われているところさえある。

この「誰でも平等に」という強制圧力の裏にあるのは、「私はこれだけやった」「どれだけ大変だったか」「やらないのはズルい」……といった、憤懣(ふんまん)渦巻く収まらない感情だったりする。こうした訳のわからない嫉妬や妬みが、「平等」を強いる本音だったりするわけだ。少なくとも、子どものためでは決してなく。おまけに、PTAで自己実現を図りたい一部の母親たちが、同じようにやれと同調圧力をかけてくることも往々にしてある。

こうした悪しき平等主義の下、働く母親たちの余裕の無さや、専業主婦との深まる溝などと相まって、年々、年度初めの保護者会はギスギスした状態になってきている。

多くの母親たちは、子どもが人質に取られていると感じている。だからしょうがない、逆らえない。そうして意に反してまで、役員を引き受けてしまう人もいる。

しかし、この認識自体が大間違いなのだ。PTAとはやりたい人だけが加入すればいい任意団体で、全員を「軟禁」しての強引な役員決めなど、あってはならないことだ。

そもそも、PTAとは?

PTAとは、日本最大規模の社会教育団体だ。その名はParent-Teacher-Associationの頭文字を取ったもので、保護者と教職員によって構成される、ボランティア組織だ。公立、私立、国立ごとに組織され、幼稚園から高校までの「学校」に作られ、学校に付随する組織で、会員数は全国で1000万人を超える。

繰り返すが、PTAとはあくまで、任意加入の団体なのだ。にもかかわらず、強制加入であるかのような役員決めが毎年、繰り広げられているのが現状だ。

このようなPTAの強制加入については、裁判も起きている。加入していないのにPTA会費を徴収されたとして、PTAに対して保護者が会費返還を求め、訴訟を起こし、高裁で和解が成立した。和解には「PTAが入退会自由な任意団体であることを保護者に十分、周知させること」「知らないまま入会させたり、退会を不当に妨害しないよう」、PTA側が努めることが盛り込まれている。

PTAの強制加入は、憲法違反

PTAの強制加入は、憲法違反にも通じる問題だ。日本国憲法21条「結社の自由」には、結社「しない」自由も含まれている。ゆえに、PTAという「任意加入の団体」を自由に結成・解散することはもちろん、自由に参加や脱退ができることが保証されている。規約に「強制加入」を謳うPTAも現にあるが、保護者から訴えられれば、憲法違反として敗訴は確実なのだ。

とはいえ、「任意加入」を保護者に周知徹底しているPTAが、全国にどれだけあるのだろう。本部役員自体、強制加入=憲法違反という認識をどれだけ持っているのかも怪しい限りだ。こうして当たり前のように、保護者全員を強制的に会員にして有無を言わせぬ役員決めが行われているのが、圧倒的多数のPTAの姿だと言えるだろう。

次回は、自分や家族の時間を犠牲にしてまで関わったPTAの実際の活動に踏み入ろうと思う。

黒川 祥子(くろかわ・しょうこ)
福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。弁護士秘書、業界紙記者を経てフリーに。主に家族や子どもの問題を中心に、取材・執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11回開高健ノンフィクション賞受賞。他の著作に『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英社)、橘由歩の筆名で『身内の犯行』(新潮社)ほか。息子2人をもつシングルマザー。