上司も同じ人間なのだと心得て

信頼関係を築いた後なら、裏表なく本音を言ってもいいかもしれません。でも、お互いをよく知らない段階で悪い点を指摘するのは、キャッチボールで言えばいきなり剛速球を投げるようなものです。最初は、相手が簡単に受け取れるボールを投げること。先にいい点を言っておいて、その後に「あえて言えば、こういうところは少しもったいない気がしました」と柔らかく伝えれば、上司もそれほど気を悪くしなかったのではと思います。

上司も人間ですから、結局は人と人とのコミュニケーションの問題。相手の人柄や気持ちを考え、それに合った伝え方をするのもマナーの一つです。そもそも、何を言っても受け止めてくれるような素敵な上司なら、職場に不公平ははびこっていないはず。結果として相談者さんは煙たがられてしまいましたが、その失敗の原因はコミュニケーションのスタイルにあるかもしれません。例えば、言いにくいことを指摘するにしても、上司が“何でも言って大丈夫な人なのか”を周囲に確認してからにするでしょうし、その後のフォローもぬかりなくするというスタイルが良かったかもしれません。上司の「何でも話してくれ」への対応は、その人のコミュニケーション力を計るバロメーターと言えるかもしれません。ある意味、ひっかけ問題ですね。

私は、自分のメンバーには「苦手な上司と話すときは相手をお客様だと思うといいよ」と言っています。皆、お客様になら相手のことを考えた対応ができるのに、上司に対しては配慮を忘れがち。身内だからという甘えもあるのかもしれません。そこに気づけば、職場での人間関係がぐっとスムーズになって、結局は自分も働きやすくなるはずです。

転職しても、同じ状況に陥る可能性大

では今後、相談者さんはどうしたらよいのでしょうか。まず心配なのは、眠れなくなっているという点。早めに産業医に相談して、適切なメンタルケアを受けてください。同時に、人事部にも相談してみることをおすすめします。企業にもよりますが、産業医の紹介や上司との仲裁、他部署への異動など、何らかのサポートを受けられる場合があります。

次に、転職は慎重に検討してください。私からのアドバイスは「転職するなら、二度と同じ結果を招かないよう自分を振り返ってから」です。どこへ行ってもこういう人はいるもの。彼らへの対応を身につけないまま転職しても、あるいは異動しても、また同じ状況に陥る可能性があります。当社が運営する「ミドルの転職」のサイト上で実施したアンケートでも、「上司と合わない」「職場の人間関係が合わない」という理由で転職すると、転職後の満足度が低くなるという結果が出ています。

加えて、40代の転職者には、採用側も「人間関係を築く力」を求めます。厳しいようですが、もし今回の転職理由を裏表なく伝えるなら、再就職のハードルはかなり高いでしょう。

私は、転職を希望する方には「新たな職場に行ったら、いきなり腕前を見せようとせず『How to live(職場に適応する)』を最優先に」と伝えています。このケースのように異動の場合も同じです。転職・異動したばかりの人は、意欲が高いこともあって「How to work(仕事で成果を出す)」や「How to influence(組織や他者に影響を与える)」を優先しがち。でも、こうした行動は煙たがられる結果になりかねません。