ジェットスター・ジャパンに入社し、男性中心のランプの現場に飛び込んだのは2012年。26歳のときだった。それまでは羽田空港で、他の航空会社のチェックインカウンターで働いていた。スカートにヒール姿で搭乗客を笑顔で送り出していた彼女が、全く趣の異なるランプ業務に興味を持ったきっかけは、「もっと飛行機の近くで働いてみたい」という素朴な好奇心だった。
「ある日、窓から駐機場を見下ろしていると、彼らがマーシャリング(誘導)したり、見たこともない機材を操る様子が見えて、それが本当にカッコよくて。あの機材を触ったら、どんな気持ちがするだろうと想像するうちに、どんどん憧れが増していきました」
アザだらけになっても「楽しい」と思えた
ランプ担当の男性に話を聞きにいったところ、「他社には女性もいるらしい」「専門職の訓練は必要だけど、航空専門学校を出ていなくてもなれる」との情報を得た。
「女の人にはきついかもよ」とクギを刺されたが、一気に希望がふくらんだ。そんなとき、インターネットで見つけたのが、ジェットスター・ジャパンの求人だ。11年に日本法人が設立されたばかりで、あらゆる業種で人を募集していたのだ。ランプ業務も「未経験可」とあり、すぐにエントリーした。
ただ、いざ入ってみると、駐機場で働く女性社員は後藤さん1人。「いまは私のほかに女性社員が2名いますが、前の職場の人からは、『本当に大丈夫なの?』と心配されました」と彼女は笑う。
実際、女性ならではの苦労は絶えなかった。最もきつかったのは、「ソーティング」と呼ばれる荷物の搭降載作業だ。旅客機に積まれる荷物の中には、重いもので30kg以上のスーツケースもある。同僚たちは離発着のたびに手際よく積み降ろしをしていたが――。
「最初は、1つ持ち上げるだけでも息が切れちゃって……。次の日には全身が筋肉痛でした」
それが1日に数百個。ただでさえ小柄な彼女には、かなり負荷が大きかった。最初の数カ月は、二の腕がパンパンに張り、足や手がアザだらけになっていたという。
「ただ、仕事自体を嫌になることはなく、それもまた楽しかったんです。慣れてくると、荷物を持ち上げるコツもわかってくる。1つ覚えるたびに進歩していると実感できたからでしょうね」
それに同社へ転職するとき、彼女には心に決めたことがあった。
「絶対に弱気にならない。職場で唯一の女性だからこそ、弱さを見せたくなかったんです。一日でも早く、一マンパワーとして役に立つようになりたい。そればかり考えていました」