▼血をつないだ女とつながなかった女
血なまぐさい政争の中では、世継ぎをもうけることが最重要課題。血統を残すか残せないか、運命の分かれ目はどこに?
偉大な人物を産んだ、“中継ぎ”の存在の価値
オーストリア・ハプスブルク家の分家スペイン・ハプスブルク家。その始祖はカルロス1世(1500~58)。16世紀初頭から17世紀末まで、スペインはアメリカ大陸やフィリピン、マリアナ諸島までの広大な植民地を持ち、輝ける時代を築きました。そのスペイン史の王族ナンバーワンヒロインが、カルロス1世の母、フアナ女王です。
夫はハプスブルク家神聖ローマ皇帝の息子フィリップ美公。エキゾチック美女のフアナとは、政略結婚ながらお互いに引かれあい、会ってすぐに情熱的に愛し合います。しかしフィリップが妻に飽きて浮気に走ると、彼女は精神を病み始めます。夫の突然死でそれが顕在化し、“狂女フアナ”と呼ばれました。妊婦ながらも、夫のひつぎや大勢の家臣とともにスペインの荒野をさまようという理解しがたい行動に出ます。それからの彼女は40年間も幽閉されますが、女王の座を絶対に譲ろうとせず、息子とともに名目上の共同統治者として生き続けます。なんら政治に関与することはなくても、カルロス1世という傑物を産んだことで、スペインは「日の沈むことなき世界帝国」への道を歩み始めます。
フアナ女王
スペイン●1479~1555
プラディーリャ作。フィリップの葬列の様子を描いた。立派なひつぎはハプスブルク家の紋章入り。フアナに同情することなく、誰もがうんざりした顔。長く続いた異常な葬列であることを表す。
【光】美男で有名だった浮気性の夫を愛し抜き、11年間の結婚生活で6人もの子をなすほど。一途な愛情を貫いた。
【影】嫉妬深く病的なほどのヒステリー気質が怖い。夫の愛人の髪を切って暴れまわるという痛々しさ。