【間室】まさに普遍的な、ね。赤い表紙が印象的な『I Love Youの訳し方』(※3)も作家100人の小説や詩、名台詞から普遍的な魅力のある愛の表現を厳選した本です。

【森岡】100の愛の言葉をまとめ上げるなんて、切り口が秀逸ですね!

【間室】芥川、太宰から、小川洋子さん、村上春樹さんまで「愛している」という言葉を使わずあの気持ちをどう描いているか。感動モノです!

【森岡】そういえば僕も最近感動したのが、若き数学者、森田真生さんの『数学する身体』(※4)です。

【間室】処女作にして、小林秀雄賞を受賞した気鋭の作家さんの本ですね。

【森岡】「0(ゼロ)」の話や宇宙の限界の話など、数学的な話を自分のことばで紡ぎ出して、読む人を、今まで知らなかったような思考へといざなってくれます。

【間室】数学が苦手な人でも、彼の文章のファンになる人が多いと思う!

【森岡】で、読んでいくと、実は5分の1ほどが岡潔の話なんです。

【間室】昭和の偉大な数学者の。

【森岡】彼は『春宵十話』(※5)など、すばらしい随筆を残していますよね。僕もあらためて読み直しました。そして、森田さんの著書を読むと岡潔のことが知りたくなります。読んだ本が次の本を紹介してくれるという経験も、読書の醍醐味(だいごみ)ですね。

【間室】その『春宵十話』では、岡潔が剣豪小説の大家、吉川英治のことも書いていましたよね?

【森岡】ええ。親交があったようで。

【間室】『〆切本』(※6)は、文豪たちが締め切りをどう逃れたかをまとめた衝撃の逸話集ですが、吉川英治は、なんと奥さまに出版社へ謝りに行ってもらっていたそうなの。

【森岡】作家の奥さんも大変だ……。巨匠たちも締め切りにジタバタしたのかと思うと、僕も仕事で追い込まれたときに心強い。それにしても、早速本と本とがつながりましたね!

(※3)望月竜馬ほか/雷鳥社(※4)森田真生/新潮文庫(※5)岡潔/角川ソフィア文庫(※6)左右社編集部/左右社