池上さんが文末に「ね」を多用する理由

3つ目のスキルは“文末の工夫”です。池上氏は文末に「ね」を多用されます。これは「そうですよね」というときの「ね」です。英語で言うと“Don't you?”といった付加疑問。ポイントは共感を得たいところや共通認識があるところに「ね」をつけることです。ただし反対意見が出そうなところや相手の知らないことにはつけないこと。

池上氏は講演で、国際情勢の話を続けざまにしたあと、「そんなこと言われても日本人の僕たちにはピンときませんよね」と使っていました。聞いているほうの気持ちを先回りして最後を「ね」でしめることで、聞き手は話し手に共感と信頼感を抱きます。

「ね」は男性よりも女性のほうが自然に取り入れやすい文末です。ここで覚えてほしいのは“女性らしさ”と“わかりやすさ”のさじ加減です。

ビジネスの世界ではどうしても、わかりやすさ=論理的=男性、わかりにくさ=感情的=女性といったステレオタイプがあります。そのため、私たち女性は男性的に話さなければと思い、つい文末すべてを言い切ってしまいがちです。しかし、それでは強くなりすぎることもあります。男性の多い業界なら、そのさじ加減を少なめに、女性が多いのなら多めに、と状況によって文末を変えていけばいいのです。オリジナルのさじ加減でNHK式をぜひ実践してください。

矢野 香
信頼を勝ち取る「正統派スピーチ」指導の第一人者。NHKキャスター歴17年。大学院で心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究し、博士号を取得。国立大学の教員として研究を続けながら、政治家、経営者、上級管理職などに「信頼を勝ち取るスキル」を伝授。

構成=池田純子 イラスト=米山夏子 写真=iStock.com