「起承転結」の順番はビジネスではNG
論理的な話し方の代表格に“PREP法”があります。PREPとは、P=Point(結論)、R=Reason(理由)、E=Example(事例)、P=Point(結論を再度提示)のこと。結論から先に話すことでロジカルに伝わる、基本中の基本の方法です。よく聞く起承転結の順番は時系列であり、これはビジネスではNGです。
たとえば取引先に苦情処理に行った報告を上司にするとしましょう。「最初に担当の○○さんから今回のご指摘について伺っている途中で、その上司の××さんが、より難しい課題をおっしゃったのですが、私が持参した資料のデータをご覧になって、そのあとで……」などと時系列での報告は非常にまどろっこしい。
PREP法なら、冒頭に結論がきます。「先方のお怒りは解決しました」から始まり、「なぜなら持参した資料のデータと今後の提案に納得していただけたからです。ただし今後の課題が3つあります……」と展開すれば、非常に論理的です。
結論としてまずgoodかbadを言う
しかしPREP法が難しいのは、実際に話そうとすると、何が結論なのかわからないというケースです。結論のつもりで結論でないことを言っていることが多いのです。
そういうときは、結論としてまずgoodかbadを言いましょう。上司に報告するときに「いい報告があります」「悪い報告があります」から始めるのです。goodかbadかを示したうえで、「先方のお怒りは落ち着きました」、あるいは「先方のお怒りがとけないので、次は部長も一緒に行っていただけませんか」と続けます。
これらのテクニックはニュース番組の話し方でも使われています。たとえばニュースの詳細を伝える前に「緊迫した北朝鮮情勢についてのニュースです」、あるいは「うれしいニュースが飛び込んできました」などと言っているのを聞いたことがあるでしょう。つまり、その話の意味づけをしてから結論を言う。そうすると多少、結論のピントがぼけていても、相手に伝わりやすいのです。
ぜひ身につけてほしい、NHK式3つのスキル
こうしたロジカルな話し方のよい見本は、私がNHKでお仕事をさせていただいていた時に学んだ“NHK式”です。ジャーナリストの池上彰氏もNHK式を実践しておられる方の1人。先日、池上氏が講演で使っていらっしゃった中から今回は3つほど、ご紹介しましょう。
(1)“疑問形”をうまく使う
1つ目は“疑問形”をうまく使うこと。これは先ほどのgoodかbadのように、結論を先に言って行き先を明確にしたあとに使います。この結論を先に言う方法を池上氏は著書『伝える力』の中で「話の地図を渡す」と表現なさっています。わかりやすい説明にするための話し方です。「話の地図」を渡したうえで、その後の話を疑問形で進めていきます。
池上氏は講演で「トランプさんが米大統領に当選しましたよね。これは世界にどう影響するのか? 皆さんはどう思いますか」と問いかけていました。そうすると聞いている人は「どうなるんだろう」と1度自分で考えてみる。しかし、答えはわからない。ですからその後の解説をよりしっかりと聞く準備を整えるわけです。
この“疑問形”をビジネスの場で使うとすると、たとえば新商品の提案場面。「皆さんの職場ではこういう問題がありますよね。そこで考えられる解決方法は何でしょうか」と問いかけます。聞き手に一緒に考えてもらうことで話の筋道が立ち、結果的に論理的に伝わります。
(2)“接続詞”をうまく使う
2つ目にうまく使いたいのは“接続詞”。1つ目の疑問形を投げかける方法で「なぜ~でしょうか」と問いかけ、その次に「なぜならば」「要するに」といった接続詞で話を展開していく方法です。「なぜトランプさんが米国民に支持されたのでしょうか。なぜならば~」と疑問形と接続詞とをワンセットで話していくのがコツです。
接続詞は大きく分けると3つあります。「なぜならば」など、その前の疑問形に答える“理由解説型”と、「要するに」「つまり」など、そこまでのことをまとめる“まとめる型”、そして「では」という“場面転換型”です。
この3つ以外に池上氏が講演やTV番組などでよくお使いになるつなぎ言葉があります。何だと思いますか? それは、「さあ」という言葉です。「さあ、そこでトランプさんは困りました」「さあ、慌てたのは欧米諸国です」といった使い方です。
この「さあ」を前例の新商品の提案場面で使うとすると「新商品には特徴が3つあります。1つ目は~、2つ目は~、3つ目は~。さあ、実際に使ってくださったお客さまの反応はというと……」というふうに使います。この「さあ」には「次に」という意味合いがあり、文章なら段落を変えるところ。明るめに言うのが正解です。
池上さんが文末に「ね」を多用する理由
3つ目のスキルは“文末の工夫”です。池上氏は文末に「ね」を多用されます。これは「そうですよね」というときの「ね」です。英語で言うと“Don't you?”といった付加疑問。ポイントは共感を得たいところや共通認識があるところに「ね」をつけることです。ただし反対意見が出そうなところや相手の知らないことにはつけないこと。
池上氏は講演で、国際情勢の話を続けざまにしたあと、「そんなこと言われても日本人の僕たちにはピンときませんよね」と使っていました。聞いているほうの気持ちを先回りして最後を「ね」でしめることで、聞き手は話し手に共感と信頼感を抱きます。
「ね」は男性よりも女性のほうが自然に取り入れやすい文末です。ここで覚えてほしいのは“女性らしさ”と“わかりやすさ”のさじ加減です。
ビジネスの世界ではどうしても、わかりやすさ=論理的=男性、わかりにくさ=感情的=女性といったステレオタイプがあります。そのため、私たち女性は男性的に話さなければと思い、つい文末すべてを言い切ってしまいがちです。しかし、それでは強くなりすぎることもあります。男性の多い業界なら、そのさじ加減を少なめに、女性が多いのなら多めに、と状況によって文末を変えていけばいいのです。オリジナルのさじ加減でNHK式をぜひ実践してください。
信頼を勝ち取る「正統派スピーチ」指導の第一人者。NHKキャスター歴17年。大学院で心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究し、博士号を取得。国立大学の教員として研究を続けながら、政治家、経営者、上級管理職などに「信頼を勝ち取るスキル」を伝授。