『スターバックス再生物語』は全従業員が持つ

人事戦略を担う久保田美紀さんは「1番大切なのはパートナー(従業員)の自発的な成長を促すこと」と言う。そのためレーティングによる人事評価は行わず、対話を通してやる気やポテンシャルを引き出す方法を取っている。対話を担当するリーダーたちが集まる「リーダーシップ研修」では、『マインドセット』を基に思考が行動に及ぼす影響を学ぶ。

「相手の成長を願うなら、まず自分自身もGrowthMindset=成長思考になる必要があります。この本は、そうしたマインド(心のあり方)や対話力を身につけるうえで、とても役に立つ1冊です」

リーダーたちが陥りがちな思考や行動パターンに対して、理解と気づきを促すために『「学習する組織」入門』も活用。さらに、今後の研修を組み立てるための参考本として、いま人事担当者の間では『ジョブ理論』が読まれている。

国内1300店舗以上を展開する、米国シアトル発のスペシャルティコーヒーストア。従業員一人ひとりの自発的な成長を促す仕組みがマニュアルレスの現場を支えている。

「イノベーションを学ぶための本ですが、これを人事戦略に置き換えて活用したいと思っています。売れる商品には顧客の感情に働きかける力がある――。当社では『人事もマーケティング』と考えるので、人事戦略にもパートナーの心への働きかけが欠かせません」

同社の戦略の中心は「人」。全従業員が持つ『スターバックス再生物語』には、経営者自らの成功と失敗がつづられている。ここから浮かび上がる人間らしさこそ、同社の人材育成の原点なのかもしれない。

撮影=市来朋久、小倉和徳