仕事は面白かったが営業だから数字にはシビア。つい目標達成に気持ちが向きすぎた。ショップを3軒、4軒と忙しく回るある日、店のドアを開けると事務員だけがいて「オーナーはちょっと席を外しています」と言う。

「そうですか、これ今月の数字ですから」と伝えて踵(きびす)を返したとき、戻ったオーナーは憤怒の形相。「あなた、5分も待てないような仕事してるの? 帰って!」とコップの水を掛けられた。

Favorite Item●ほぼ日手帳を愛用。上司に言われたことを書き留めてあり、新しい手帳を買ったら書き写す。重要な書類を手帳に貼り付けるため、のりとハサミも欠かせない。ブルーがマイカラー。

「慌ててドアを閉め、自分の営業車まで戻りました。いったんエンジンをかけましたが、『これで帰っていいのかな』と思いとどまったんです。もう一度店に戻って『明日また来ます』とだけ言い残しました。宣言しておかないと怖くて電話も掛けられないと思って……」

翌日の昼に行くと、オーナーはおにぎりを握って待っていてくれた。そして「及川さん、なんで私が怒っているかわかる?」と話し始めた。「私たちが一軒一軒訪問して足で稼いでいる数字を、あなたが軽く考えたから怒ったんだよ」。そのひと言で、「お互い忙しいから伝言しただけなのに」と釈然としなかった気持ちがスーっと消えた。

昇格試験に失敗し、グレる

そんな失敗の一つ一つを糧にして成長してきた及川さん。本社にいる同期より「苦労している」と思っていたし、「数字も出している」という自負もあった。だから最初に課長昇格の試験を受けたときは「これだけ苦労しているのだから課長になれないなんてありえない」くらいの鼻息だった。ところが見事に落ちてしまう。

「ひどく気落ちしました。試験は業績評価と論文、面接があり、おそらく論文に自分のおこがましさが出ていたんだと思います」

そのときは落ちた理由がわからず、上司に反抗してみせた。

「あなたの下じゃ受からないとか、頑張ってもバカバカしいとか。でも目の前の仕事は一生懸命やりました。現場のことは裏切れませんから」

だがグレた気持ちは隠しきれていなかった。ある日、ショップオーナーの中でも最上位にランクされるグランドオーナーから呼び出され、穏やかに、けれどもキッパリと言われたのだ。「これ以上、私をガッカリさせないで。どこまで腐っちゃうの。早く元の及ちゃんに戻って」

「これは腐っている場合じゃないと、ようやく我に返りました。では自分に何ができる?と考え、埼玉事業所をいい組織にしたい、ポーラにかかわるBDを増やしたいという気持ちがフツフツとわいてきました」