「女の子だから」と言われないように

同社の新入社員は「フレッシュマン」と呼ばれ、少し年上の先輩「フレッシュマンリーダー」と2人一組で働きながら仕事を学ぶ。だが、最初の頃はわからないことだらけで、辞めようと思ったことも一度や二度ではなかった。

(上)優秀な先輩にあこがれ、自身もよき先輩になろうと思うようになった。(下)男性の整備士にくらべ腕力では若干ハンディがあるが、「新海さんの仕事は速くて正確」と評価されている。

自動車大学校では、使い古しのオンボロの実習車で機械の構造を習う。それゆえに多少の失敗も許されたが、実際に顧客が乗るクルマでは、ボルト1本の緩みも決して見逃してはならない。

「入社してすぐの頃は、エンジンオイルを抜きながら同じオイルを足してしまったり、作業項目にない交換作業をしてしまったり……。ヘックス(六角)レンチの使い方が下手で、ボルトを壊してしまうこともありました。そのたびに先輩にカバーしてもらっていて、正直、向いていないかな、と悩みました」

新人整備士は法定点検や車検の簡単な作業から始め、徐々にエンジンやトランスミッション(変速機)の交換など複雑な仕事を任されるようになっていく。その日々を振り返るとき、彼女が自身の原点として思い出すのは、千葉支店で仕事を教わった、4年上の先輩整備士のことだ。

「女の子だからと言われないように頑張ろう」

彼は初めにそう言うと、「そのためには、同期に差をつけるような仕事をすればいい。そうすれば絶対に認められるから」と続けた。

「何より感謝しているのは車種ごとのマニュアルにいろいろとメモを書いてくださったことです。例えば、基本的な点検作業をする際も、バッテリーの位置は車種によってさまざまで、新人はそれを覚えるのにまず苦労するんです。先輩は、そのわかりにくい箇所をリストにしてくれました。『これをとりあえず覚えれば、仕事も自然と早くなるよ』って」