これは1対1のインタビューはもちろん、3、4人の討論番組でもアナウンサーがよく使う手法です。たとえば「どうお考えですか」と言いながらアナウンサーがAさんに手を出したら、Bさんは発言したくても手を出されていないため言えません。この方法はビジネスシーンでは会議で使えます。ファシリテーターとして会議に参加した場合、営業担当者ばかりしゃべっているから、企画担当者の話も聞いてあげたいというときには、あまり発言していない企画担当者のほうに手を向ける。非言語表現で手のひらをつけることで、「次はあなたがしゃべる番です」と指名できるので、その人はしゃべりやすくなるのです。ちなみに、手を出すときに指で指すのは、相手への批判になりますので、批判したいとき以外は控えましょう。
「ね」と手のひらを見せるといったテクニックを行ったうえで、まとめとしてお伝えしたいのが“相手が話しだすまで一息待つ”。これが3つ目のポイントです。
たとえば、あまりしゃべらないAさんとよくしゃべるBさんがいたとします。BさんはAさんのことを「あの人、全くしゃべらないんだよね」と言いますが、よく観察してみると、Bさんが「○○についてどう思う?」と質問して、Aさんが今しゃべろうというときに「××だと思うんだよね」とBさんが続けて話しだしてしまっています。
相手が話しだすまで待つ余裕を持ちましょう
このときBさんはAさんの返答を待ったと言います。待ったけれども何も言わなかったと。けれどもAさんのように、相手があまりしゃべらない人の場合は、もう一息待ってほしい。その一息の目安は、今自分の言ったせりふをもう1回リフレインできるぐらいの長さです。「今度の企画書の締め切りは今月末になっているけれど、進捗状況を説明してくれる?」と言ったとしたら、もう一度、それを自分の頭の中で言ってみましょう。相手はこちらの言葉の解釈に加えて、それに対しどう答えようか考えるので、相当時間がかかるのです。
ですから、自分が待っているつもりという時間が短くないか、考えてみましょう。そして待てるなら当然、答えるまで待ってあげたほうがいい。ただ本当に答えに困っているときは、その沈黙が長ければ長いほど、相手は説教された感じや圧迫感を持ってしまいます。質問を変えるなどして助け舟を出してあげましょう。その場合、オープンクエスチョンをクローズドクエスチョンに変えるのがおすすめです。「締め切りは今月末だけど、どうなっているの?」「ポイントは何?」といった、オープンクエスチョンはどう答えるか迷う可能性があります。オープンクエスチョンで聞いて返答に窮していたら、クローズドクエスチョンに変えて聞きなおしてみましょう。クローズドクエスチョンというのは、「今、忙しいですか?」という問いに対して、「はい、忙しいです」「いいえ、忙しくありません」などイエスかノーで答えられる質問の仕方。
今回ご紹介した、文末に「ね」「よ」をつける、手のひらをうまく使う、相手に合わせて一息待つ、この3つを覚えておけば、相手がどんなに話すのが苦手な人でも、リーダーとしてスムーズに会話を導くことができるはずです。
信頼を勝ち取る「正統派スピーチ」指導の第一人者。NHKキャスター歴17年。大学院で心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究し、修士号を取得。国立大学の教員として研究を続けながら、政治家、経営者、上級管理職などに「信頼を勝ち取るスキル」を伝授。
構成=池田純子 イラスト=米山夏子