ちなみに、日記を毎日つけるようになったのも、この作品の影響だった。
「もともと、自分自身を客観的に見ることを大切にする子どもだったので、日記はそのための最適なツールでした。何か嫌なことがあったり悩み事があったりしても、それを他人に相談するのではなく、さまざまな視点になって反すうしながら書き記すことで、解決させるんです。学生時代からよく、まわりの大人たちに『どうしてそんなに達観しているの?』と言われていたのは、その影響かもしれません(笑)」
多感な時期に多大な影響を与えてくれた特別な一冊。普段は読み終えた本は破棄している菊間さんでも、この『アンネの日記』だけは捨てられず、今日まで大切に保管してきた。
それほどこの作品に傾倒した根底には、後に弁護士の道に進むことになる菊間さん持ち前の“正義感”が作用しているのかもしれない。
「戦争もそうですが、昔から、差別というものに大いに疑問を感じていました。学校の授業で、地域によっては今も同和問題が残っていると知り、なおさらその疑問は大きくなりましたね」
人種や出自による差別。病気に対する差別。あるいはセクシャルマイノリティーへの差別など、世の随所にはびこる差別意識に対して、「同じ人間なのになぜ?」という疑念は、成長とともに大きくなっていくばかり。
「でも、どれだけ本を読んでも、そうした疑問に対する答えは得られません。書いている人も描かれている人も、皆、立場も視点も異なるわけですから、それも仕方がないでしょう。ただ、唯一はっきり言えるのは、あらゆる差別論に対して、私はまったく共感できないということです」
背景となるそれぞれの時代に、人の考えをゆがませる何らかの事情があったことは想像に難くない。本を通してそうしたゆがみに触れながら、じっくりと自身の考えを醸成させてきたのが菊間さんの今日までの読書体験なのだ。
弁護士として多忙な毎日を送る現在も、「古今の歴史と対峙する最高の手段」として読書に没頭している。