ルイ・ヴィトンなどを傘下に置くLVMHをはじめ、シャネルやロレアルなど女性になじみ深いブランド、ヨーグルトで知られるダノンなど、日本に進出しているフランス企業。日本の企業とどう違う!?
残業しないでしっかり成果を出す
さまざまな点で“働きやすい職場”としても認知されてきているフランス企業。本国の企業を多数訪れ、働きやすさについて調査してきた東レ経営研究所主任研究員の渥美由喜さんに話を聞いた。
「フランス人は一部の経営者などを除き、バリバリ働く人でもワークよりライフのほうに価値を置きます。そのため、長時間労働を是とせず、有給休暇も当然のように消化します。サービス残業という概念はありません」
こうした本国の考え方は、日本にあるフランス企業ではどれくらい浸透しているか。人材紹介会社・JACリクルートメント消費財チームマネジャーの筧裕樹さんは語る。
「本国とそう違わず、『決められた時間内でしっかり成果を出すべき』という考えの企業が多いですね。成果さえ出していればワーク・ライフ・バランスを取りやすい個人主義といえます」
10年ほど前に国内保険会社からフランス系のアクサ生命保険に転職した大前敬美さんは、入社当初、社員みんなが当然のように長期休暇を取る社風に驚いた。
「私は日本人気質なもので、いまだに10日程度しか取ったことはなく、休み明けはこわごわ出勤していますが(笑)。でも、私の不在で業務が滞っていたことはありませんでした」
同社では、2009年にダイバーシティ推進室を立ち上げ、7年間で女性管理職の比率を6%から17%に引き上げた。働き方においても、定時帰りの奨励、夜間や週末はメールを送信しない、会議は18時まで、といったルールを浸透させるため、さまざまな取り組みを行っている。
室長の金子久子さんは語る。
「なかにはどうしても土日にメールをしてしまう社員がいますが、何度もリマインドすることでだいぶ減りました。目下の課題は、時間や場所に縛られない効率的な働き方。在宅勤務やフレックス制を導入しています」
こうした目標や制度案はフランス本部からグループ全体におりてきたものだが、成果を出すまでのプロセスは各社に一任されているという。
「細かい内容は日本人に合わせてカスタマイズしていいので、マネジャーとしては非常にやりやすいですね。米系企業にいた頃は本部で決まったことは絶対実行のトップダウン、いわゆる中央集権でしたが、フランスは地方分権なんです」と、金子さん。
前出の大前さんによると、そのやり方は個人の仕事にも反映されている。
「以前働いていた日本企業と一番違うところは、個人主義の文化が強いところです。与えられた仕事は自分でスケジュールを調整して進められるので、週1回、集中して作業をしたいときは在宅勤務制度を使い自宅で仕事をしています。業務過程でも日本のように細かく報・連・相をする必要はなく、『任せてもらえている』という実感が大きくやりがいがありますね」
裁量を与えられるということは信頼されているということ。期待を裏切らないように、着実に成果を出そうとする責任感が社員たちにはある。
・ペルノ・リカール(酒造)
・シャネル(アパレル・コスメ)
・エールフランス(航空)
・エルメス(アパレル)
・ダノン(食品)
・ロレアル(コスメ)
・サノフィ(製薬)
・BNPパリバ(金融)
・LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(アパレル・コスメ・シャンパンなど)
・トタル・ルブリカンツ(石油エネルギー)
長野陽一=撮影