その日は、ある住宅街で火災があり、当時所属していた消防署から2台のポンプ車で出場した。
「初めての出場に、緊張でハンドルを握る手が震えました」
火災現場に近づいたとき、隊長の命令で十字路を曲がると、彼女の隊は後方から来るポンプ車との連携が取れなくなり、水利からの送水の中継が遅れた。担当するポンプ車に積まれた水は1t。放水開始から2分で空になってしまう量だ。2分以内に後方のポンプ車から送水がなければ、ホースを持って活動する隊員に命の危険が及ぶ。
「たとえ隊長の命令であっても、現場へ向かう道に責任を持つのは機関員の仕事。常に自分の頭で考えるべきだったんです。二度と同じ失敗をしないようにと、心に刻み込みましたね」
そのときの苦い経験は、機関員になって2度目の出場で早くも生かされることになる。
深夜、ある大倉庫で発生した火災は「第3出場」と呼ばれる大規模なものだった。中村さんのポンプ車は現場に最も早く駆けつけ、初動を担った。
そのとき、中村さんはポンプ車の放水準備を的確に行い、前回の失敗を挽回するような目覚ましい活躍を見せた。この消火活動は高く評価され、彼女は消防総監賞を受けている。
「無事に火を消し止め、すすで真っ黒になった隊員が疲れ切って戻ってくる。『お疲れさま』と言って車で彼らを迎えるときが一番ほっとします。その瞬間が、この仕事の大きなやりがいです」