中村さんが入庁した当時は、女性の消防官は火災現場に立つことができなかった。災害出場できるのは、24時間の交替制勤務職員だが、94年の規則改正まで、女性の深夜業務が認められていなかったからだ。
ポンプ車やはしご車の機関員はもちろん、消防艇、消防ヘリの操縦士にも女性は一人もいなかった。
女性消防官が担当する業務は主に事務職で、防災訓練で消火器の使い方を指導したり、建物の検査や査察をするのが彼女たちの「現場」だった。つまり中村さんの世代は、その規則改正により選択の幅が広がった第1世代ということになる。
消火活動の要を担う機関員という仕事
希望通り「女性初」のポンプ車の機関員になったとき、直属の上司からは厳しい口調でこう言われた。
「やるからには、決して途中で諦めずに続けなさい。今後は火災現場に立つ仕事を希望する女性が増えてくる。もし、君が辞めてしまえば、後進の道を塞ふさぐことになる。結婚しても出産しても続ける覚悟を持ちなさい」
ポンプ車の機関員とは、火災現場において重要な責務を担う仕事だ。ポンプ隊は主に4人体制で行動する。ポンプ隊の活動の指揮を執る隊長、火災家屋に突入し、ホースを伸ばして消火活動を担う隊員2人、そしてポンプ車を運転・操作する機関員である。機関員は、現場への最適・最速のルートを即時に判断すると同時に、「水利」と呼ばれる消火栓や防火水槽などから水を確保する責任を負っている。
また、ホースに水を送り込む水圧を調整するのも大切な仕事だ。水圧が高すぎるとホースが暴れて隊員が支えきれなくなり、弱すぎると消火能力が損なわれる。常に「最適」を保つ冷静さが求められる。機関員は、消火活動を後方で支える要なのである。
だが、機関員になって初めての出場は、中村さんにとって苦い思い出となった。そして、「あれが自分の原点になりました」と彼女は振り返る。