病気や認知症の人のための「成年後見制度」

こうしたとき、娘が成年後見制度を使って認知症の母親の後見人になると、母親の財産を管理できるようになります。成年後見制度とは、病気や認知症などで判断能力が不十分な人に代わって「財産管理」や「身上看護」ができる制度です。認知症の母親の財産管理をするためには、家庭裁判所に「娘の私が母親の後見人になりたい」と、申し立てをします。申し立てができるのは本人、配偶者、4親等内の親族です。本人が申し立てをするのが不安な場合は、司法書士や弁護士、社会福祉士などの専門家も申し立てができます。家庭裁判所はこの人が後見人としてふさわしいかどうか一切の事情を考慮して可否を決めます。

法定後見には「成年後見人」「保佐人」「補助人」のランクがあり、認知症で判断がまったくできない母親なら、娘は母親の「成年後見人」、母親は娘の「被後見人」となり、娘の権限で母親の預金の出し入れをしたり、母親名義の不動産を売ってお金に代え、そのお金で介護施設に入れることもできるようになります。成年後見人になった娘は、今後、母親のお金を使うにあたり、どのような目的でいくら引き出したかなど、あとあと説明ができる記録を残しながら財産管理をすることになります。

成年後見制度の仕組み
 

第三者が成年後見人になったほうがいい場合もある

ここで問題となるのは、成年後見人となった家族が、権限を逆手にとって自分の生活のために親の財産を使い込んでしまうことです。「後見人として任せられたから」とはいえ、親から子どもにお金が移ることは贈与であり、他の兄弟姉妹もだまってはいないでしょう。また、「お姉ちゃんが認知症のお母さんのお金をどんどん使っちゃう……」と離れて暮らす他の兄弟姉妹が心配するような場合には、成年後見制度を使って、第三者の専門家に後見人になってもらうよう依頼したほうがよいかもしれません。

家庭裁判所は、本人の家族を成年後見人として認める場合もあれば、それを認めず弁護士、司法書士、社会福祉士、税理士など第三者の専門家へ誘導する場合もあります。さらに家族が後見人になる場合は、その監督者として専門家を監督人にすることもあります。つまり申し立てのあった人それぞれに適切な対応をしているのです。専門家が後見人になった場合は、本人の財産から報酬をもらうことになります。その報酬額は周囲の環境や資産状況を見て家庭裁判所が決定しますが、多くの場合は月1~3万円です。