“女性の仕事”に回帰する理由
【塚越】男性が、自分のいる意味を感じられなくなるのでしょうか。
【グレイ】その側面は否定できないと思います。実は、この男性の女性化という傾向はノルウェーでも見られます。ノルウェーにおいて、フェミニズムは他の国よりもずっと早く始まりました。先ほどの話のように、パワフルで強いけれども女性にきちんと接することができる男性のロールモデルが少なかったために、男性が女性化し、今度は女性が強くなりました。そうして、男女平等の社会も実現させました。ノルウェーは世界の中でも“うまくいっている国”の一つと考えられています。でも実際には、離婚率は高く、自殺やうつになる率も高いのが現状です。
【塚越】長い冬のせいだけではなかったんですね。
【グレイ】そうなんです。また、面白いデータがあります。男女がそれぞれどのような仕事に就いているかを調べたところ、ノルウェーでは“伝統的に女性の仕事”と考えられてきた職業に就いている女性が世界のどの国よりも多いです。ノルウェーは経済が安定しており、社会保障も充実していますから、女性が男性に経済的に頼らなくても暮らすことができます。それにより、男性に対して自分の能力を証明する必要がなくなり、好きな仕事に就いてよいという状況になりました。そこで女性たちが選んだのが、“伝統的に女性の仕事”とされてきた職業だったのです。
【塚越】それは興味深いですね。
【グレイ】面白いでしょう。これには理由があります。「基本的に男女は同じ」という考えでいると、家に帰ってきても、パートナーの前で女性らしい部分を出せない、女性ならではのニーズを満たせないということが起こるのです。そうすると家の中でもストレスがたまります。それを避けるために、女性らしさを出せる仕事を選ぶという現象が起こるわけです。これは、外では男性らしい仕事を選び、家庭で女性らしさを追求するのとは逆です。
私は男女が平等であり、職場や役所、政府機関に女性が進出することはとても大事だと思っています。それが実現しないと、平和な世界は訪れないでしょう。これは女性が男性よりも優れているという意味ではありません。女性性と男性性のバランスがとれていることが大事なのです。そのバランスがとれていれば、子どもも生まれますし、もっと平和な世の中が生まれるでしょう。男性でも女性でも、仕事と家庭という場において、男性性と女性性のバランスがとれていることがとても重要です。