なぜキャリア女性の恋愛はうまくいかないのか、目に付く男性は頼りない人ばかりなのか、カップルになっても長続きしないのか……。全世界で5000万部を超えるパートナーシップ本の名著、『ベスト・パートナーになるために』を記したジョン・グレイ博士が、そんな疑問に答えます。(聞き手:ファミリー・リレーションシップ専門コーチ 塚越悦子さん)

なぜキャリア女性は理想のパートナーに出会えないのか

【塚越悦子さん(以下、塚越)】キャリア志向で仕事もできる30代・40代の女性が、恋愛となるとうまくパートナーを見つけられないのはどうしてなのでしょうか。

【ジョン・グレイ博士(以下、グレイ)】まず、彼女たちはキャリアのために長時間働いていますよね。そのため男性が入り込む余地がない生活を送っている、というのが一つの理由です。それから、男性に対する理想ですが、必ずしも“高すぎる”ということではないにしても、現実的でなかったり、ロマンチックな幻想を抱きすぎたり、的外れな期待をしているということがあります。

ジョン・グレイ博士。世界的な心理学者で、全世界で発行部数5000万部を超える『ベスト・パートナーになるために』の著者であり、コミュニケーション心理学の第一人者。人間の心理の本質に、最も精通した人物として知られる。表面的な感謝ではなく、人間の本質そのものに感謝できるようになる“究極の感謝”の体現者として、パートナーシップにおける最高のコミュニケーションを、世界中に伝え続けている。

【塚越】その2つだけで、もう十分に難しそうですね。

【グレイ】パートナーに求める理想という話で言うと、何らかの理由で「日本人の男性は自分には向いていない」という結論に達した女性が、国際結婚をすべく日本人以外のパートナーを探すケースが増えているというのも納得がいきます。もちろん個人差があるのは言うまでもありませんが、例えば典型的なアメリカ人は、日本人の男性ほど女性化していないということは言えるでしょう。日本人の男性は“草食化”している傾向にあります。その理由の一つとして、日本が第2次世界大戦に負けたからという考え方があります。

【塚越】そうなんですか。

【グレイ】そんなことが個人に影響するはずがないと思うかもしれませんが、敗戦には男性性を失わせる効果があります。それによって感じる“恥”が原因とも言えるでしょう。日本だけではなく、ドイツも敗戦国ですし、たとえばノルウェーもバイキングの歴史があり、それぞれの国で、男性性を失わせるような“恥”の歴史があります。

【塚越】なるほど。

【グレイ】いつの時代も、男の子は勝利するヒーロー像というものをもちながら育つものです。でも、父親が自分自身の男性性に自信を持てない場合、妻に対して要求が高くなったり、自分をより大きく見せるためにいらいらしたり怒ったり、また支配的になったりするようになります。父親のそのような態度が母親にとってどんなに害のあるものかを見て育つ男の子には、「仕事もできて、パートナーにも優しくできる男性のロールモデル」がいません。

【塚越】確かにそうかもしれません。

ロールモデル不在がもたらす悲劇

【グレイ】多くの家庭で、父親は支配的だったり、あるいはパートナーに見向きもしなかったりということがあると思います。そして、そんな父親を見て育った男の子は「母親は本当にハッピーではなかった。パートナーにあんな態度で接するような男性にはなりたくない」と思うでしょう。そして男性性を否定して女性化してしまうということが起こります。

「男は火星から、女は金星からやってきた」のキャッチフレーズで、世界的大ベストセラーとなった『ベスト・パートナーになるために』(ジョン・グレイ著、三笠書房)。

【塚越】では、男性はどうしたらいいのでしょう。

【グレイ】まず「男性らしさとは何だろう」と考えることです。そして、好ましい男性性を表現しながら、女性に対しても思いやりのある言動をとりつつも、自分が女性化してしまわないやり方を模索するのです。日本にはそのロールモデルが少ないと言えるでしょう。先ほどの話のように、世界的にも男性の草食化の傾向が見られますが、日本は特に顕著だと思います。

【塚越】草食化の原因には、身近によいロールモデルがいないという理由もあったんですね。

【グレイ】どんな男性でも“いい男”になりたいという気持ちがあります。しかし、パワフルで自信に満ちていながら女性に対して親切で、敬意をもって接するというロールモデルがいないのです。一方、女性も、支配的な父親に対して心を閉ざし、服従的に生きてきた母親を見て育った場合は、「あんなふうにはなりたくない、不幸な人生を送りたくない」と思うわけです。そして、自分が強い男性のように主体的な人生を送るのだ、と無意識のうちに考えるのです。実際に女性はどんどん強くなりました。

【塚越】女性が男性化しているとも言えるのでしょうか。

【グレイ】それもあります。例えばアメリカでは、大学を卒業する女性の数は男性の2倍になっています。また、男女間の給与格差がよく取りざたされていますが、35歳以下に限って言うと女性の方が男性よりも稼いでいます。35歳以下の子どものいない女性は、男性よりも20%も多く稼いでいます。彼女たちは働き者で、仕事もでき、スーパースターのような存在なのです。でも有史以来、男性が狩りにいって、家族のために食べ物を持って帰ってくる時代が長く続いてきました。そこでは、女性は男性に頼る存在だったのです。ですから、女性が自立して自分より多く稼ぐという状況では、男性は「自分の仕事がなくなってしまった」と感じるわけです。

“女性の仕事”に回帰する理由

【塚越】男性が、自分のいる意味を感じられなくなるのでしょうか。

【グレイ】その側面は否定できないと思います。実は、この男性の女性化という傾向はノルウェーでも見られます。ノルウェーにおいて、フェミニズムは他の国よりもずっと早く始まりました。先ほどの話のように、パワフルで強いけれども女性にきちんと接することができる男性のロールモデルが少なかったために、男性が女性化し、今度は女性が強くなりました。そうして、男女平等の社会も実現させました。ノルウェーは世界の中でも“うまくいっている国”の一つと考えられています。でも実際には、離婚率は高く、自殺やうつになる率も高いのが現状です。

【塚越】長い冬のせいだけではなかったんですね。

【グレイ】そうなんです。また、面白いデータがあります。男女がそれぞれどのような仕事に就いているかを調べたところ、ノルウェーでは“伝統的に女性の仕事”と考えられてきた職業に就いている女性が世界のどの国よりも多いです。ノルウェーは経済が安定しており、社会保障も充実していますから、女性が男性に経済的に頼らなくても暮らすことができます。それにより、男性に対して自分の能力を証明する必要がなくなり、好きな仕事に就いてよいという状況になりました。そこで女性たちが選んだのが、“伝統的に女性の仕事”とされてきた職業だったのです。

【塚越】それは興味深いですね。

【グレイ】面白いでしょう。これには理由があります。「基本的に男女は同じ」という考えでいると、家に帰ってきても、パートナーの前で女性らしい部分を出せない、女性ならではのニーズを満たせないということが起こるのです。そうすると家の中でもストレスがたまります。それを避けるために、女性らしさを出せる仕事を選ぶという現象が起こるわけです。これは、外では男性らしい仕事を選び、家庭で女性らしさを追求するのとは逆です。

私は男女が平等であり、職場や役所、政府機関に女性が進出することはとても大事だと思っています。それが実現しないと、平和な世界は訪れないでしょう。これは女性が男性よりも優れているという意味ではありません。女性性と男性性のバランスがとれていることが大事なのです。そのバランスがとれていれば、子どもも生まれますし、もっと平和な世の中が生まれるでしょう。男性でも女性でも、仕事と家庭という場において、男性性と女性性のバランスがとれていることがとても重要です。

パートナーへの“ダメ出し”の前にすべきこと

【塚越】では、うまくいくカップルとそうでないカップルの最大の違いはなんでしょうか。

【グレイ】うまくいっているカップルに見られるもっとも顕著な点は、男女がどのように違っているかを理解していて、それに対して、お互いの最もいいところを引き出せるようなコミュニケーションをしている、ということではないでしょうか。うまくいかないカップルは、お互いの最悪なところを引き出してしまっています。

【画像左】塚越悦子さんが翻訳を行った全米ベストセラー、『異性の心を上手に透視する方法』(アミール・レバイン レイチェル・ヘラー著、プレジデント社、2016年6月13日発売)。【画像右】『異性の心を上手に透視する方法』の原書『Attached』。表紙には、グレイ博士による推薦文が踊る。

【塚越】お互いのいいところを引き出すコミュニケーションは、確かに学ぶべきスキルですね。

【グレイ】そうです。誰でも最初からうまくできるわけではありませんが、練習することでそのスキルは磨けます。私はこの仕事を40年もやっていますが、カップルがうまくいっていない場合には、その理由は例外なく、どちらか一方ではなく二人ともにあるのです。私のところに相談に来る人はよく「パートナーを愛しているが、こことここがダメだ」というリストを持ってくるのですが、それに対して私はこう言います。「あなたは本当に愛情深いですね。相手に対してこんなに多くのネガティブな価値判断をしているのですから」本当の意味で相手を愛するとは、相手を理解することです。そして、相手が間違いを犯したとしても、自分も完璧な人間ではないのだから、相手が完璧ではないことも含めて愛せるはずです。自分自身の不完全さを許せていないと、相手の不完全さも許せないですからね。男女の違いを理解することに加えて、自分自身を愛すること。二人ともこれができているカップルはうまくいく可能性が高いです。

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塚越悦子(つかごし・えつこ)
ファミリー・リレーションシップ専門コーチ。My Peaceful Family代表。
東京大学文学部卒業。モントレー国際大学院で行政学修士を取得後、国連に就職。2002年にアメリカ人の夫と結婚し渡米。アメリカでライフコーチの資格を取得し、国際結婚カップルの相談を受けてきた。現在は一家で日本に住み、最高のファミリーを作るための婚活サポートやリレーションシップ・コーチングなどを行っている。著書に『国際結婚一年生』(主婦の友社)、訳書に『異性の心を上手に透視する方法』(プレジデント社)がある。ウェブサイト(http://www.mypeacefulfamily.com)で恋愛・結婚・家族をテーマに情報発信をしている。『異性の心を上手に透視する方法』Facebookページ (https://www.facebook.com/iseinokokoro)。