注目すべきは「特別損失」
ところで、こうした問題を、決算書から読み取れるケースもあります。
例えば、平成14年(2002年)3月期と平成15年(2003年)3月期の王将の損益計算書【図1】を見てみると、「特別損失」の中に目立つ項目があるでしょう。そう「貸倒引当金繰入額」と「固定資産売却損」【図2】です。
貸倒引当金とは、客に対するツケや外部への貸付けのうち、回収不能額を見積もって「損」として計算したもの。これは、前述した、貸付金に対するもの。「約45億円も回収できずに損になる可能性が高い」ということが、損益計算書の中できちんと示されていたわけです。
また、「固定資産売却損」とは、不動産などの購入額と売却額の差額でどれくらい損をしたかというもの。厳密には、減価償却分などがあるので純粋な差額ではありませんが、38億円近く損をしていることが分かるでしょう。この固定資産売却損は、報告書の中で触れられた取引によるものではないようですが、「こんなに損失が出るなんて、いったい何があったのか?」と純粋な疑問が湧いてきますよね。
しかも、平成14年(2002年)3月期は、その特別損失があったために、当期純利益がマイナス、つまり、当期純損失になってしまっているのです。王将はこの20年、平成14年(2002年)3月期を除き、すべて黒字決算。本業では、しっかりと利益を出せる企業なのです。
さて、ニュースになるような出来事の多くは、損益計算書の「特別利益」「特別損失」の中に、その存在を見つけることができます。特別利益や特別損失には、その名のとおり、「特別」なデータが集計されていますから。
企業の決算書を見るときは、ぜひ、特別利益、特別損失に注目してみてください。ニュースを見て、特別利益や特別損失で影響額を確かめるもよし。特別利益や特別損失からヒントを見つけ、掘り下げていくもよし。初心者から上級者まで、今日から誰でもできる、お勧めの決算書利用法です。
公認会計士。中小ベンチャーをサポートする士業ネットワークアールパートナーズ代表。お茶の水大学在学中に公認会計士2次試験に合格。卒業後、太田昭和監査法人(現新日本有限責任監査法人)に入所、国内企業の監査に携わる。公認会計士3次試験合格後、独立。企業、個人を問わず会計面からのサポートを行う。ベストセラー『相続はおそろしい』(幻冬舎新書)他、『決算書を楽しもう』(ダイヤモンド社)、『赤字はどこへ消えた?』(プレジデント社)など著書多数。